最愁列車
終いには、声を上げることも出来なくなって、無感動になって。
涙すら忘れる。
でも、ここでなら思う存分泣いてもいい。
思いっ切り叫んでもいい。
聞いてくれる人などいないなら、いっそ誰もいない方がずっといい。
私は私自身と向き合い、私が存在していることを再確認する。
ここへ来た、それが私の本当の目的。
そしてもう一つ、これまでの朽ち果てた人生を、古い私を何もない世界に埋葬するために。
ベンチなどない駅。
私はホームの端に座っていた。
いつもなら絶対にしないことを、やっていた。
大声で歌を歌い、涙する。
涙声で震えながら、それでも歌い続けた。
気づくと、線路から車輪の響きが聞こえていた。
知らぬ間に2時間近く経っていた。
列車は、それから20分以上してから、ようやく見えて来た。
私は立ち上がると、駅から離れた。
カメラを構える。
これで、怪しまれたりはしない。
そして、泣きはらした顔を見られることもない。
古い一眼レフ。
フィルムなんて入ってない。
写真なんてスマホでしか撮ったこともない。
ファインダーを覗き、ピントを合わせてみる。
シャッターを押すと、一瞬だけ暗くなる。
決して残らない写真。焼き付けるフィルムもない。
列車は私が乗る気配も見せないため、そのまま速度を上げて去って行く。
そして、あとに残される規則正しい旋律。
上り下りあわせて大体1時間半おきくらいに列車は来る。
その間、私は歌い続け、列車が近づくとカメラを構えた。
歌い、涙し、時には地に跪いて泣き崩れ。
これまでの哀しみを、伝えられなかった、誰にも受け止めてもらえなかった思いを解放し続けた。
白銀の世界に蒼のベールが降りてくる。
夕陽のような輝きはなく、ただ昏く沈んでゆくだけの夕暮れ。
真っ白だった景色は蒼の中に落ち込んでゆく。
道路を横切る小さな影。
キツネだった。
その生き物は私の姿を不思議そうに見つめた後、雪の原に走り去った。
キツネにさえ変に思われてしまったことに、苦笑してしまう。
やがてすべてが闇に呑まれてしまう。
彼には帰るべき巣があるのだろうか。
そして、私にも帰るべき場所はあるのだろうか。
そこに、私を待っている人はいるのだろうか……
日は完全に暮れてしまった。
ホームにある照明だけが、もの悲しく周囲を浮かび上がらせている。
誰のためでもない、誰を照らすためでもない灯り。
でも、今は私だけを照らしてくれる冷たい光。
ふと空を見上げた。
自分があまりにも小さく思えて、それなのに――
空にすら、私の哀しみを埋める隙間なんてない……
数えきれない無数の光の粒。
時を異にして伝えられた時間。
満天の星空が、私を見下ろしていた。
笑うしかなかった。
どんな想いも哀しみも、棄て去ることは出来ない。
それならば、たとえどれだけの時間を要しても、放ち続けるしかない。
いつか、どこかで誰かが気づいてくれると信じて。
あの、星たちのように。