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泉絵師 遙夏
泉絵師 遙夏
novelistID. 42743
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最愁列車

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 終いには、声を上げることも出来なくなって、無感動になって。
 涙すら忘れる。
 でも、ここでなら思う存分泣いてもいい。
 思いっ切り叫んでもいい。
 聞いてくれる人などいないなら、いっそ誰もいない方がずっといい。
 私は私自身と向き合い、私が存在していることを再確認する。
 ここへ来た、それが私の本当の目的。
 そしてもう一つ、これまでの朽ち果てた人生を、古い私を何もない世界に埋葬するために。
 ベンチなどない駅。
 私はホームの端に座っていた。
 いつもなら絶対にしないことを、やっていた。
 大声で歌を歌い、涙する。
 涙声で震えながら、それでも歌い続けた。
 気づくと、線路から車輪の響きが聞こえていた。
 知らぬ間に2時間近く経っていた。
 列車は、それから20分以上してから、ようやく見えて来た。
 私は立ち上がると、駅から離れた。
 カメラを構える。
 これで、怪しまれたりはしない。
 そして、泣きはらした顔を見られることもない。
 古い一眼レフ。
 フィルムなんて入ってない。
 写真なんてスマホでしか撮ったこともない。
 ファインダーを覗き、ピントを合わせてみる。
 シャッターを押すと、一瞬だけ暗くなる。
 決して残らない写真。焼き付けるフィルムもない。
 列車は私が乗る気配も見せないため、そのまま速度を上げて去って行く。
 そして、あとに残される規則正しい旋律。
 上り下りあわせて大体1時間半おきくらいに列車は来る。
 その間、私は歌い続け、列車が近づくとカメラを構えた。
 歌い、涙し、時には地に跪いて泣き崩れ。
 これまでの哀しみを、伝えられなかった、誰にも受け止めてもらえなかった思いを解放し続けた。
 白銀の世界に蒼のベールが降りてくる。
 夕陽のような輝きはなく、ただ昏く沈んでゆくだけの夕暮れ。
 真っ白だった景色は蒼の中に落ち込んでゆく。
 道路を横切る小さな影。
 キツネだった。
 その生き物は私の姿を不思議そうに見つめた後、雪の原に走り去った。
 キツネにさえ変に思われてしまったことに、苦笑してしまう。
 やがてすべてが闇に呑まれてしまう。
 彼には帰るべき巣があるのだろうか。
 そして、私にも帰るべき場所はあるのだろうか。
 そこに、私を待っている人はいるのだろうか……
 日は完全に暮れてしまった。
 ホームにある照明だけが、もの悲しく周囲を浮かび上がらせている。
 誰のためでもない、誰を照らすためでもない灯り。
 でも、今は私だけを照らしてくれる冷たい光。
 ふと空を見上げた。
 自分があまりにも小さく思えて、それなのに――
 空にすら、私の哀しみを埋める隙間なんてない……
 
 数えきれない無数の光の粒。
 時を異にして伝えられた時間。
 
 満天の星空が、私を見下ろしていた。

 笑うしかなかった。
 どんな想いも哀しみも、棄て去ることは出来ない。
 それならば、たとえどれだけの時間を要しても、放ち続けるしかない。
 いつか、どこかで誰かが気づいてくれると信じて。

 あの、星たちのように。
作品名:最愁列車 作家名:泉絵師 遙夏