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「─ 培養肉をご存知ですか?」
食後の紅茶を 私の前に置くマスター。
いきなりの問い掛けに、私は面食らう。
「確か…幹細胞から培養して作る お肉ですよね」
「はい」
「それが 何か──」
「例えば、豚の幹細胞を使えば、豚肉が作れます」
「…」
「では 人の幹細胞を使うと、どうなると思われますか?」
頭に浮かんだ言葉を打ち消すために、私の声は上ずる。
「ま、まだ…培養肉の技術って、そこまで進んでいませんよね?!」
「科学技術は、表に出てるものが全てでは ございません」
「な、何で 人の肉なんかを…」
「とある筋の方が、食べてみたいからと試しに作ってみたそうです」
「?!」
「食したところ、思いの外 美味だったので…同好の士に広める目的で、開発が進められ 技術を確立されたんだとか」
「。。。」
「当店は、ある伝手から それを仕入れ、お客様に提供させて頂いております」
「…許されるんですか!? そんなものを お店で出して──」
「事情を知らなければ 味が少し変わった豚肉です。貴方様も そう お思いになりましたよね?」
マスターは、意味ありげに微笑んだ。
「実際に 食べた経験がある方以外には、あのお肉の正体など 判りようがありません」