<見下ろす花火> 病院の坂道 2
「あれ香織ちゃん。こんなところで何? ――ああ、花火。
祐君はちゃんと帰した?」関さんの声だった。
「面会は七時半までだからね。わかってると思うけど。まさか、そのソファの後ろとかに隠れてたりしないよね」
どんどん近づいて来るその声と話している内容に僕の心臓は過剰に反応した。
「もちろん帰しましたよ。ほら、今頃はあの辺を自転車で駆け下りてると思う」香織ちゃんが立ち上がって病院前の坂道を指差したのが見えた。
「あらそうなんだ。もしかしてこれが青春ってヤツかって思ったけど残念だわ。じゃあ早めにベッドに戻ってね」関さんはバイバイと言って去って行った。
僕はその足音が充分に去ってから身体を起こした。
「ひどいよ。面会は八時までって言ったじゃん」僕はヒソヒソ声で文句を言った。
「へへへぇ、騙される方も悪いのだ」悪びれる事もなく香織ちゃんは答える。
「祐君、人はこうしてルールを少しづつ破って大人になるんだよ」と偉そうに続けた。
僕は騙された様な気がしたけど、まんざら悪い気はしなかった。
ふと見ると香織ちゃんは遠い目をしていた――。
おわり でも つづく、はず。
作品名:<見下ろす花火> 病院の坂道 2 作家名:郷田三郎(G3)