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一人旅の勧め

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旅館の浴衣が嫌い


昔から、旅館や観光ホテルの部屋に備えられている浴衣が嫌いだ。
なぜ嫌いなのか。
私は子供の頃、寝相が悪かったらしい。世の中の子供というものは皆寝相が悪いもので、寝相の良い子供の方が珍しいのではないかと思うが、私の寝相の悪さは特別だったらしい。
昔、母から私の寝相の悪さについて、いくつか話を聞いたことがある。
母と私が一緒に寝る際に、私を右側に寝かせたはずなのに目が覚めると私が左側にいたとか、夜中に目が覚めると、隣に寝ているはずの私がいないので、慌てて回りを見回すと、襖を開けっ放しにしていた隣の部屋で寝ていたとか。
寝相が悪いということは、眠りながらごろごろと動き回っていたのではないかと思われるが、これが浴衣という着物にとっては致命的な問題となる。
旅館で浴衣を着て眠り、夜中に眠りながら動き回った結果、朝起きたときには、浴衣は体から全て脱げ落ちている。帯は残っているので、帯の背中部分に脱げた浴衣がまとまって引っかかっていることになる。
つまり、きちんと浴衣を着て寝た子供が、朝にはパンツだけで腰に帯を巻き、背中に大きな布切れを引きずっている姿となるわけだ。
10代半ばになると、浴衣が嫌いになる理由がもう一つ増えた。
私は中学2年生の1年間で、およそ20センチほど身長が伸びてしまい、世間の平均よりもかなり背が高くなってしまった。
今はそんなことはないのだろうが、昔の旅館や観光ホテルに備えられている男性用の浴衣は、Mサイズしかなかった。だから身長の高い私がその浴衣を着ると、丈が脛の半ばまでしか届かず、天才バカボンのスタイルになってしまうのだ。
これらのみっともない恰好がいやで、私は旅館や観光ホテルに泊まったときに浴衣を着なくなった。
では、旅先の旅館で寝るときに何を着ているかと言うと、そのまま外出してもそこそこおかしくない程度のデザインのハーフパンツにTシャツである。
だから、家族や友人達と旅行に行って、大浴場に行くときや夕食を摂る際に、皆浴衣を着ているのに私だけTシャツ短パンで、少々浮いてしまうことになる。
それでも私は旅館の浴衣が大嫌いなのである。

作品名:一人旅の勧め 作家名:sirius2014