一人旅の勧め
メディア総出演の旅
少々大げさなタイトルを付けてしまった。
今回の話題も一人旅ではなくグループ旅行の話だ。「一人旅の勧め」というタイトルに反するが、一人旅の話題などそう多くはない。大目にみていただければと思う。
私は学生時代、旅行系のサークルに所属していた。そのサークルでは、毎年夏休みに好きな者が4~6名程度のグループを作って旅行に行くと言う行事があった。3年生が旅行を企画して参加者を募集し、1・2年生が好きな旅行企画に応募するという形式だった。
私は3年生のとき、山陰/山陽旅行を企画し、1名の2年生をサブリーダーとして根回しして参加者を募集したところ、1年生の男2名・女性2名という予想よりも多い応募者があった。
こうして私たち6名は、意気揚々と東京駅から新幹線に乗って西を目指したのだった。
その旅行の二日目、当時の山口線を走っていたSLに乗った。SLを降りた後に山口市内を観光して回っていたとき、ある学校の体育館で何かのイベントが開催されているのに出くわした。私たちが何のイベントかわからないまま体育館の外から他の大勢のギャラリーと一緒にイベントを眺めていると、マイクを持った女性と数名のスタッフがやって来た。マイクを持った女性がギャラリーの群に「この中にSLに乗った方はいますか?」と問いかけた。すると、よせば良いのに、1年生の一人が「はーい」と大声で挙手してしまった。マイクを持った女性が私たちの前に駆け寄って来た。挙手した1年生はすぐに私の陰に隠れてしまい、仕方なく私が女性の相手をするはめになってしまった。その女性は矢継ぎ早にいくつかの質問をし、私たちの前から去っていった。
後で知ったのだが、そのイベントは地元のラジオ局が主催したイベントで、全てラジオで生放送されていた。私に質問した女性はそのラジオ局のアナウンサーだった。私は期せずして、僅かか十数秒だが地元のラジオ番組に出演してしまったのだ。
次は、私たちが萩を訪れた時のことだ。
レンタサイクルを借りて全員で萩の町を観光している途中、何かの撮影をしていた。どうやらNHKの番組の撮影のようだった。私たちが自転車を停めて撮影を眺めていると、スタッフの一人が私たちのところにやってきた。
スタッフは私たちに、どこから来たのかなどと簡単な質問をした後、「自分たちはNHKのスタッフで、今、昼のワイドショーの撮影をしているのだが、少しだけ観光客として出演してくれないか」と頼み込んだ。まあ、旅行の記念になるかと、皆でOKして、そのスタッフと打合せをした。
こうして私たちは、NHKが撮影をしているところに偶然レンタサイクルで通りかかり、スタッフにその場で呼び止められて簡単なインタビューを受ける、という『やらせ』の片棒を担いだのだった。
最後の出演も萩の観光中のことだった。
私たちは、NHKとは別の撮影現場に出くわしたのだ。中には知っている俳優がいたので、自転車を停めて眺めていたところ、またしてもスタッフが私たちのところにやってきた。そのスタッフは私たちに、今、映画の撮影をしているのだが、通行人のエキストラとして出演してくれないか、と頼み込んだ。旅行の記念になるかと、皆でOKして、私たちはその映画にエキストラとして出演したのだった。
東京に帰ったあと、そのときの旅行のメンバー全員で、封切られたその『配達されない三通の手紙』という映画を見に行った。
こうして私たちは、一度の旅行でラジオ・テレビ・映画に出演した、サークルの伝説の人物になったのだった。
作品名:一人旅の勧め 作家名:sirius2014