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一人旅の勧め

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眠れなかった夜


前回のテーマは『最悪の夜』だったが、今回は『眠れなかった夜』である。

私は高校2年の終わりの春休みに、一人で山口県に旅行に行った。
なぜ山口県だったかと言うと、私は翌年に大学受験を控えていたのだが、私立文系狙いで、受験科目は国語・英語・日本史を予定していた。
当時の日本史は、ここを押さえておけば80%の得点が取れる、というテーマが三つあり、その中の一つが『明治維新』だった。
ご存知のように、山口県には、萩・下関・長府といった明治維新の際の重要な事件の舞台になった場所がたくさんある。明治維新の立役者だった薩摩藩・長州藩の一方の根拠地だったのだから、当然である。私は、一人旅のついでに明治維新に関わる旧跡などを巡って、日本史の勉強の一助とすることも狙っていたのだ。
往路は寝台特急を利用した。所謂ブルートレインである。記憶があやふやなのだが、おそらく『さくら』か『富士』ではなかったかと思う。
ミニ周遊券を利用して、下関-青海島-萩-秋吉台-山口-長府、というルートで回り、最後は小郡から夜行の急行で東京に戻ることにした。このとき利用したのが、急行『くにさき』だったが、この『くにさき』に乗車して東京に向かった夜が、『眠れなかった夜』だった。
『くにさき』は急行なので普通列車と異なり、シートはリクライニングができた。しかし、このリクライニングが曲者だった。体重を預けた状態で少しでも動こうものなら、バターンという大音量と共に元の状態に跳ね戻ってしまうのだ。
つまり、背もたれを倒してうとうとしたところで、僅かに寝返りをうつと突然背もたれに跳ね飛ばされて強制的に目覚めさせられてしまうのだ。
こうして私は夜通し背もたれと格闘し、静岡を過ぎたところでとうとう諦め、背もたれを直角にしたまま、暫し微睡んだのだった。

今考えると、たまたま私が座ったシートだけ不具合があって、あのような状態だったのかも知れない。
車内はガラガラだったのだから、なぜ別の席に移って試して見なかったのか、当時の私を殴りつけたい思いがする。
昔は、通りすがりの見ず知らずの人からいきなり殴られる、という通り魔事件がしばしば発生した。
私はあの通り魔は、実は未来から来た被害者自身ではないかと思う。きっと、過去の自分に対して殴りつけたいくらいに怒りを感じる部分があったのだろう。
私も過去に戻れるとしたら、25歳の頃の私に会って殴りつけたいと思っている。
「あの女だけはやめておけ!」と言いながら。


作品名:一人旅の勧め 作家名:sirius2014