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や・く・そ・く

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「路塚宏和く~ん」

 数日後の雨が降った朝。

 教室の入口で、両手を腰に当てた真銀さんが立ちはだかります。

「私 今朝、琴に呼ばれたの」

 澱んだ微笑みに、宏和君は数歩後退しました。

「な、何で?」

「─ 学校まで、私の傘に あの子を入れて行くため」

「は?!」

「自分が傘を差して登校したら、帰りに<正しい相合傘>が出来ないからって」

 先日の会話を思い出す宏和君に、真銀さんが顔を寄せます。

「<正しい相合傘>って、何?」

「琴ちゃん曰く、一方しか傘を持ってない状態の相合傘」

「…朝使った傘を、帰り置いていけば良くない?」

 頷く宏和君。

 真銀さんは、自分の顎の先を 人差し指で突きました。

「もしかして…帰りの相合傘を確実にするために、敢えて自分の傘を持っていかない選択?」

「そうかも」

「あの子は…どれだけ あなたとの相合傘が楽しみなんだか……」

 疲れた笑顔の真銀さんが、宏和君の肩を叩きます。

「確かに、気分の盛り上がったあの子が 色々おかしくなるのは、重々承知してるの」

「…」

「でも、なるべく周りに迷惑がかからない様に、あなたが善処してくれると嬉しいな。」

「りょ、了解──」

作品名:や・く・そ・く 作家名:紀之介