オヤジ達の白球 56話~60話
午後1時。青空に雲が増えてきた。
西から東へ流れる灰色の雲が、やがて青空の半分を覆い隠す。
(雲が増えてきたぞ。予報通り、南岸低気圧が関東へ接近してきたのかな?)
ちらりと祐介が空を見上げる。
「祐介。なに呑気に空なんか見上げてんのさ。早くしてよ。
みんながもう集まってきちゃうじゃないの」
陽子が祐介を急かせる。
郊外のバッティング・センターの駐車場へ、次々に車が集まって来る。
いずれもこの日が来るのを心待ちにしていた、ドランカーズのメンバーたちだ。
捕手の小山慎吾が1番乗りでやって来た。
右手に愛用のバット。左手にキャッチャーミットをぶら下げている。
「打つだけじゃもったいないです。
せっかくです。キャッチングの練習もやりましょう」
設置されている機械は2台。
1台は60キロの球速に固定されている。
しかしもう一台は、最大90キロまで出るという。
14mの距離から飛んでくる90キロの球は早い。当てるだけで精いっぱい。
野球に換算すると120キロから、130キロの球速に相当する。
60キロの打席へ岡崎が入る。初球、2球目とたてつづけに空振りする。
(まいったな。なんだかおかしいぜ・・・タイミングがまったく合わねぇ)
3球目も見事な空振りになる。
うしろで捕球していた小山が「岡崎先輩。みごとな3球3振です」
とクスリと笑う。
「先輩。球の出てくる瞬間を待っているだけでは、タイミングが取れません。
この機械はアーム式。
アームの動きは、ピッチャーの腕の振りによく似ています。
下から上に向かって動き始める時から、バットを振るタイミングを
逆算します。
球を力で弾き返そうとしないで、芯でとらえてください。
それだけに集中して、バットを振り切ってください」
作品名:オヤジ達の白球 56話~60話 作家名:落合順平