オヤジ達の白球 56話~60話
バッティング・センターは街にもう一軒ある。
野球専用だが隅に一台だけ、ソフトボールの打席が有る。
だがそこはいつも小中学の野球小僧と、甲子園を夢見て熱くなっている
父兄たちで満員御礼の状態がつづいている。
50ちかいオヤジたちがソフトボールを打たせてくれと、
入り込むすき間はない。
「おあつらえ向きだ。
俺たちにぴったりのバッティング・センターじゃないか」
人目がないのが何よりもいい。
素人は、とかく人の目を気にする。
誰も見ていないのだが人がいるだけで、注目されているような錯覚を覚える。
そう思うとそれだけで練習に集中できなくなる。
1日だけチームのために動かしてくれるという約束を、陽子が取り付けてきた。
「いつなんだ?。その日は?」
「2月13日。バレンタインデーの前日。しかも平日の金曜日」
「なんとも中途半端な日だな。
バレンタインデー前日の金曜日に、ひょっとして、何か意味でも有るのか」
「大当たり。休眠していた私設が再稼働するのよ。
バレンタインデーの日にカップル優待で、再スタートする魂胆なの。
その前日、機械の最終調整をかねてチームに貸してほしいと交渉してきたの。
1日借りて、5000円。どう、悪くない条件でしょ」
「ということは、本調子でないマシーンと、本営業の前日に
対決するのか俺たちは。
しかも5000円の大金をはらって」
「安いでしょ、そのくらいなら。
チームの予算から払うお金だし、ほんものの投手だって暴投はするわ。
いいじゃないの。1日、好きに使わせてくれるんだもの。
こんなチャンス、2度とないと思うわよ」
「それもそうだ。じゃさっそくチームの全員に集合の連絡をとるか」
(58)へつづく
作品名:オヤジ達の白球 56話~60話 作家名:落合順平