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郷田三郎(G3)
郷田三郎(G3)
novelistID. 29622
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坂道(病院の坂道シリーズ)

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 僕は香織ちゃんの両親のカードで借りた十冊前後の本を週に一回づつ届ける役を頼まれている。
 だから出来るだけ軽い文庫本にしてくれと香織ちゃんに頼んだ。
 ハードカバー等が混ざると結構重いのだ。
 そんな変り映えのしない会話で三十分くらいを乗り切ってから僕は返却する本を預かって病院を後にする。
 病室を出たときから僕はすごくみっともない男子中学生になる。目が真っ赤になって涙が溢れてくるし鼻水が止まらなくなって酷く汚い。更にはそれを我慢しようとする顔が醜く歪んで、半端でなくヘン顔になるのだ。一度、病院内ですれ違った小さい男の子に指を指されて笑われた事があった。
 香織ちゃんの命はもうあまり長くはないらしい。冬休みに香織ちゃんのおばさんが家に来て泣いていた。
 僕はで掛けようとした時に廊下で偶然聞いてしまったのだけど、そのまま部屋に返って寝たふりをしてしまったのだ。
 その後僕はバスで通うのをやめた。例のみっともない顔を誰にも見られたくはなかった。何故泣いているのかと他人に気遣われるのはもっと嫌だった。
 病院を出ると、振り返えらずに自転車のところまで歩く。
 病室の窓から香織ちゃんが僕を見ているのは知っていたけど、もちろん僕は振り返ったりはしなかった。
 自転車に掛けたチェーン鍵を外して跨ると長い坂道をものすごいスピードで駆け下りて行く。カーブは緩いのでブレーキは殆ど使わない。
 涙と鼻水が風圧で横に流され飛ばされてゆく。
 最初は劣勢だった風圧も麓に下りる頃にはすっかり勢いを増して涙と鼻水は完全に渇いてしまう。
 目じりに触れると少しザラっとするけど、そうでもしなければきっと誰にも気づかれないだろう。

 おわり  翔べこんち鵺