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郷田三郎(G3)
郷田三郎(G3)
novelistID. 29622
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坂道(病院の坂道シリーズ)

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病院へ向かう長い坂道を、僕は自転車を押して上ってゆく。
 心臓の音が直接鼓膜に響く。呼吸が速過ぎて喉がガラガラと鳴った。
 汗が気持ち悪いし目に入って痛い。
 それでも僕は病院へ向かう長い坂道を、自転車を押して上ってゆく。
 週に一度のこの辛いお使いを、僕はもう半年以上も続けている。
 バスで通っていた頃も入れれば一年半ほどになる。中学に入って直ぐに始まった事で、僕はもう二年生になった。
 長い坂は町を望む高い丘の病院へ回り込む様に続いていた。
 だから登り始めは丘の上の病院からどんどん遠ざかっている様な気になる。
 最初の頃はもっと真っ直ぐ上る道なら良いのにと思っていたけど、自転車で通う様になってからはそうは思わなくなった。真っ直ぐでは坂がキツくてとてもじゃないけど上れないのだ。
 病院に到着すると自転車は道端に停めた。自転車で通ってくる病人など殆どいないので駐輪場には三台ほどしか止められない。しかしそこには埃を被った自転車に占領されていた。
 僕は冷房の効いたロビーで暫く休憩してから荷物を持って四階の病室へ行く。
 ドアを三回ノックし「お邪魔します」と声を掛けてから部屋に入った。
 四人部屋の右側の窓際のベッドで香織ちゃんは起きて待っていた。
 以前は眠っていた事もあったけど、この頃では必ず起きて待っていてくれる。
「今日は早かったね」香織ちゃんは以前より柔らかく笑う様になった。
「夏になったのに相変わらず自転車で来てるんだ」と一層目を細める。
「え、うん。貰ったバス代が丸儲けだからね。転んでもただじゃ起きないんだ」預かった荷物を渡しながら、笑いがぎこちなく無かったかと僕は不安になった。
「でも祐君は凄いよ。あたしなら確実に半分も上らないうちに死んでるね」と香織ちゃんは病院では些か不謹慎なジョークを飛ばした。
 僕は言葉に詰まって「パシッ」と口で言いながらごく軽く脳天唐竹割りで応戦する。
「へへへ」と香織ちゃんはばつが悪そうに笑う。僕もつられて笑った。