オヤジ達の白球 51話~55話
「俺にも仕事がある。
進歩の無い男に、いつまでも付き合っているほど暇じゃねぇ。
そうでなくても自動車産業の下請けだ。
月がかわるたび、親会社から単価の切り下げでいじめられてんだぜ。
とにかく忙しい。だが、そのわりに売り上げは伸びねぇ。
坂本の球を、のんびりと受けている場合じゃねぇ」
「同級生だろうお前と坂上は。つめてぇなぁ、おめえって男も」
なんだ。誰の噂をしているのかと思えば、敵前逃亡した坂上の話か、
おれにも聞かせろと、もと消防士の寅吉が割り込んでくる。
「坂上?。ひょっとして、野球部の先輩だった坂上一郎さんのことですか?」
寅吉の背後からひょいと小山慎吾が顔を出す。
「なんだ、小山は、坂上のことを知ってんのか?」
「中学の時の2年先輩です。
外野で石拾いばかりしていたから、よく覚えています」
「なんだ。
野球の練習をしないで、外野で石ばかり拾っていたのか坂上のやつは。
道理でルールなんか覚えていないはずだ」
「消防の試合で、敵前逃亡したというのは
坂上先輩のことだったんですか・・・」
「おう。ウインドミルをはじめたばかりでな、四球を山のように連発した。
消防に一度もバットを振らせず、押し出し押し出しで3点を献上した。
自分の不甲斐なさに愛想が尽きたんだろ。
投手の交代を自ら宣言して、球場からさっさと姿を消しちまったのさ」
「そうですか・・・そんな事が有ったんですか。
受けてみたかったですねぇ。
坂上先輩がいったいどんな球を投げるのか・・・」
(56)へつづく
作品名:オヤジ達の白球 51話~55話 作家名:落合順平