夢幻圓喬三七日
途端に景色が江戸へと替わった。僕たち三人は、身近で聞ける師匠の火の用心に聞き惚れるばかりだ。ゆっくりと廻る間に何度か繰り返される。師匠の声は決して大将ほど大きくはないが、商店街の隅々にまで染み渡るように伸びていく。二階の窓を開けてこちらを見ている人たちもいる。なかには玄関にまで出てきて、拍手をしている人もいた。最後に大将の蕎麦屋の前で、拍子木を打ち鳴らして夜回りは終了した。
「いや〜落語だけじゃなくって、夜回りまで名人だね」
「いえ、うちの近所でもたまに回りますから」
おカミさんと母で、じゃこ山椒と昆布のおむすびを作っていてくれた。お酒にも相性が良くて、夜回りの後に最高で大将も上機嫌だ。
「旨いな〜これ。それで師匠、悪いんだけど明日の夜回りやってもらえるかな。月火水が俺たちの番なんだよ。明日で御役御免だから、頼めるかな?」
「おやすい御用です。明日もさせてもらいましょう」
「私たちでは師匠の二番煎じはとても出来ませんからね。ははは……」
我が父ながら恥ずかしい。
みんなの気持ちがまた少し近付いたが蕎麦を食べることが出来なかった十三日目だった