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夢幻圓喬三七日

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「どの噺も簡単なものって無いんですが、この『執拗』って噺は特に難しいです。初めて聴きました。今の噺家で出来る人はいないと思います。儲からない噺ですが、一生の宝になる噺を教えてもらいました」
「どんな所が難しいんですか?」
 思わず聞いてしまった。
「会話だけで噺が進むので、その場面の説明が出来ないんです。会話と一寸した仕草だけで、今誰が話しているかを聴いてる人に分かってもらわなくてはならないので、トンでもなく難しいです。三組の夫婦に、出入りの男性ですから、子どもが出ない大人七人の会話だけで話が進みます。サゲにかけては勢いを出さないといけないので、更に難しくなります。こんな噺を作った人は何を考えていたんだか……」
 隣で師匠はニコニコ笑っている。きっと師匠が自分の話芸を磨くために創作した噺なんだと僕は理解した。
 その後は、みんなご機嫌に朝太さんの奥さんの手料理に舌鼓を打ち、お酒と会話が進んだ。奥さんの手料理はどれも美味しいが、関西風の出汁巻き卵が特に旨かった。途中、興に乗った師匠が、たらちめの清女さんの名前を美代ちゃんに聞かせていた。やっぱり一息に聞こえるその呼吸に、美代ちゃんも笑いながら驚いていたが、朝太さんは師匠の口元から視線を外さなかった。
 師匠の話芸の神髄が垣間見えたが 領収書と引替えに僕の謝礼はもらえなかった十日目だった

作品名:夢幻圓喬三七日 作家名:立花 詢