美の探求
「それはすごい。それにしても、さすがトレイシーは心理カウンセラーの資格があるだけあって、精神的に成熟しているね。あの相談者と同じアジア系女性でありながら、容姿がどうのこうの、なんていう問題は完全に超越しているかのようだよ。もちろん、そうでないと心理カウンセラーなんて務まらないだろうけど。しかもそれでいながら、美容コンサルタントとして世間的な美しさも追求している立場なのは頭が下がるよ。この番組はトレイシーでなければできないね。今回の人生相談も、おそらく白人女性の美人タレントが同じ回答をしていたら、きっと嫌みに聞こえたかもしれないよ」
トレイシーは、やや困ったように微笑んだ。
ディレクターは残りのビールを飲み干した後、そういえば、とでも言うように話題を変えた。
「ところでトレイシー、最近、仕事が忙しくて疲れているんじゃないのか。風邪でも引いているの?」
「あらいやだ、私の顔、そんなに疲れて見えた?それは困るなあ。一応、元気いっぱいなんだけど」トレイシーは我に返ったような表情で、両手で頬を押さえてみせた。
ディレクターはかぶりを振った。
「いやいや、そうじゃないよ。元気なら良かった。だってさっき食事していた時、風邪薬みたいなカプセルを何個も飲んでいたからさ」
(了)
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