ショートショート集 『心の喫茶室』
ー2ー ある日の公園で
ここは小さな児童公園。お天気の昼下がり、今日も子どもたちの賑やかな声が響いている。
「あ、こんなところにおはなのたねが」
水飲み場の近くの植え込みで、幼い女の子がヒマワリの種を見つけた。
「きれいなおはながさきますように」
女の子は種の上に土をかけ、小さな手で水をくみ、数滴の水をかけてやった。
すると、それを見ていたおばあさんが、
「ちちんぷいぷい――魔法をかけたからすぐにきれいなお花が咲くよ」
そう言って通り過ぎた。
「あれ、なんだろう?」
水を飲みに来た幼い男の子が、植え込みの中のこんもりとしたところに気がついた。
「きっと、だれかがたからものをうめたんだ」
昨夜、母親が読み聞かせてくれた絵本の話を思い出した男の子は、場所がわからなくならないように、近くに落ちていた木の枝を上に突き刺して、いそいでシャベルを取りに家へ走った。
「あら、お墓かしら?」
通りかかった少女は、植え込みに木の枝が刺さったこんもりしたところを見つけて思った。
「きっとペットが眠っているんだわ」
心優しい少女は、近くに咲いていた花を一輪、その前に供えた。
「なんだよ、これ」
そこへ、棒を振り回しながら走ってきたわんぱく坊主は、ええい!と目についた山を崩し、花をぐちゃぐちゃに踏みつけた。
「へへーんだ、おれさまにかかればこうなるんだ」
そう言って、満足げに走り去った。
その後すぐに、シャベルを手に先ほどの幼い男の子が戻ってきた。そして、目印の小枝が転がっているのを見ると、肩を落として家に帰って行った。
塾帰りに再び通りかかった少女は、供えておいた花の無残な姿に呆然とした。そして家に帰ると、その話を母親にした。傍で聞いていた妹の保育園児は、翌日、保育園で友だちにその話をした。
「こうえんに、だれかがうめられているの。それをめちゃくちゃにしたわるいひとがいるんだよ。きっとおばけがでるよね」
それを隣で聞いていたわんぱく坊主が叫んだ。
「うそつき!」
「うそじゃないもん! みずのみばのちかくだっておねえちゃんがいってたもん」
その晩、わんぱく坊主は、昼間の話が怖くて眠れなくなった。母親がいくらそんな話は作り話だと言っても聞かない。しかたなく、父親は息子を連れて夜の公園に向かった。
水飲み場あたりで土を掘り返している親子を見つけ、パトロール中の警察官が声をかけた。
「何してるんですか?」
「あの――」
説明しようとする父親より先に子どもが答えた。
「ここにしたいがうまっているんだ」
当然のことながら、親子は交番に連れて行かれた。
そして一時間後、
「お騒がせしました」
父親は息子の手をひいて帰宅した。帰りが遅いのを心配していた妻が言った。
「ええ! 交番まで行ってたの!」
「そうさ、こいつのおかげでひどい目にあったよ」
「とうさん、おはかをめちゃくちゃにしたら、おばけがでる?」
「おまえ、まだそんなこと言っているのか! そんなに心配なら花でも供えておけ!」
翌日わんぱく坊主は庭に咲いていたヒマワリを持って水飲み場へ行った。
「これでゆるしてください」
そう言ってヒマワリを土にさした。
昼過ぎ、公園にやってきた昨日の女の子はそのヒマワリを見て驚いた。
「あ、もうさいてる! あのおばあさん、ほんとうにまほうつかいだったんだ!」
作品名:ショートショート集 『心の喫茶室』 作家名:鏡湖