銀行強盗のしかた教えます
「マジメも悪くないぜ」
「嫌よ。銀行マンなんて」
「そうだな。マジメぶってるもんな。おれも制服着てた頃、銀行の強盗訓練に付き合わされたよ。あれを見たらマトモな女は『勘弁してくれ』と思うよな」
「笑えるでしょ」
「笑える」
「笑っちゃいけないんだけど」
「そうなんだ。しかしあれは笑えるぞ」
「そろそろまわりくどいのはやめて。一体何が言いたいの」
「支店長の身元が調べられるなら、誰の身元も調べられる」
「よくぞそこに気がつきました」
「気づくさ。誰でも。よっぽどのバカじゃない限り。それでどいつも泣き顔してる。あれもなかなか笑えるな」
「銀行マンはバッジをつけていますもの」
「エリートの証だ」
飲み干した使い捨てカップを屑入れに投げた。席を立つ。
「この犯人はゲームのつもりだ。銀行マンの泣き顔見て楽しんでる。金はどうでもいいんだろう。実行犯はただの駒だ。ゲームを仕掛けている人間が他にいる」
「ゲームには対戦相手が要るわ」
「そうだ。受けて立ってやるさ。必ず……必ず……」
「何よ」
「おれが落としてやる」
刑事は言った。部屋を出ていく。
「まずいコーヒーだった」
「いつでもどうぞ」
仕事に戻る。例の溌剌マスコットガールがねえねえねえと近づいてきて、「あの刑事さんカッコいい。刑事ドラマの主人公みたい」と目をハートにして言った。本人はそう言われるの慣れてるみたいと教えてあげた。女子は業務を早く切り上げ今日は早く帰れと言われた。それでもかなり遅くなった。女子寮生には固まって帰り、自宅通勤者は家族に迎えに来てもらうよう念押して、彼女自身はタクシーに乗った。駅まで行って電車、降りてまたタクシー。アパートのすぐ近くでの降車は避けた。尾行がないのを見定めて、最後の数ブロックを早足で歩く。
襲われたのはその途中だ。風のように忍び寄られてまったく気がつかなかった。フワリとしたのを感じたらもう押さえ込まれていた。
「騒ぐな」
耳元で男の声がそう告げた。
作品名:銀行強盗のしかた教えます 作家名:島田信之