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レナ ~107番が見た夢~ 補稿版

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【幸男】

 その頃、俺は相当に落ち込んでいた。
 友達に言わせれば『バカバカしい』らしいが、俺には家庭を持ちたいと言う願望がある、一人の女性とパートナーシップを築き、家族を形成して子孫を残す……古い考え方だと言われようと現にそういう願望があるのだから仕方がない、だがそれは本来なら人間誰しも持っていたはずの願望、C-イン、C-ルームの登場が本来あるはずの欲求を奪ってしまっただけのことだ。
 そして同じ願望を持つ女性と知り合い、この一年、交際を重ねて来た。
 しかし、俺達はゴールには辿り着けなかった、現代では独身を通すことで生活上困ることはほとんどない、恋愛欲や肉欲もC-インやC-ルームで満たすことができる、男女が二人で生活する必要はないのだ、それ故に価値観、人生観、信仰、家庭事情……それら全てが合致しないことには結婚生活を続けて行くのは難しいとされている、少なくとも双方が、あるいはどちらかが歩み寄って合致させなければ結婚など出来ようはずもない、見切り発車で結婚しても破綻が待ち受けているだけだ。
 俺達は充分に話し合い……その結果として別離を決めた。
 結婚願望を持つ男女が急激に減少している現在、結婚に至らないと結論が出たならお互い綺麗に身を引くのがマナー、ぐずぐずと引き延ばして浪費できる時間などないのだ。
 彼女に未練はあったし、向こうもそうだと言ってくれたが、完璧なマッチングには至らなかったから別れた、そういうことだ……。
 
「よし、これでいい」
 俺は仕事を終えて時計を見る、時刻はすでに夜中の1時を回っていた。
 翌朝までにどうしても仕上げて置かなくてはならない仕事があったのだ。
 頭も身体もくたくたに疲れてはいたが、明日は休暇を取ってある、週末と併せて三連休だ、心は開放感に満ちていた。
 既に終電は出てしまっているが、明日から休みだと言うのに会社の仮眠室で夜を明かす気になどなれない、無駄な様でもホテルを取ろうかと考えていた時、ふと頭に浮かんだのがC-インだった。
 C-インで一晩を過ごす料金は、ビジネスホテルよりは高いがシティホテルほどではない。  
 宿泊施設と考えれば質素だが、ホテルなら独り寝、一方C-インならばクローン女付きだ、シティホテルで快適さを求めるのも悪くはないが、一本抜いて貰ってすっきりしてから柔らかな女体を胸に抱いてぐっすり眠る方が魅力的、そう考えると、俺の脚はためらいなくC-インに向かっていた。

 C-インのそれぞれの部屋はごく狭い。
 概ね2メートル×3メートル、その2/3は造りつけのダブルベッドに占められていて、各室にトイレ、洗面兼用のシャワー室、そして客の生体認証で施錠、開錠が出来る、やはり造りつけのロッカーだけ。
 そしてクローン女たちはごく小さなパンティしか身につけていない、ブラジャーすら与えられないのは、裸体を看板にするためでもあるが、それで首を吊ったり客に危害を与えたりしないためでもある、客も荷物と衣服全てをロッカーにしまうことになっている、例外はパンツだけだ。
 もっとも、クローン女たちには客に危害を与えたり、自殺したりする気はないように思える。
 彼女たちは生まれた時から……培養液から取り出された時からと言うべきか……停止するまで……リアル人間と区別するために死をそう表現するのだが……をC-インの中で過ごす他はない、そのための手段が講じられている。
 この建物のどこかに厳重に保管されている発信機、その受信範囲から外れると心臓が止まってしまうように細工されている、もう少し科学的に説明するならば、クローンは生後間もなく心臓ペースメーカーを埋め込まれ、自律神経による鼓動は止められる、そして鼓動に必要なパルスと電源は発信機から送られているのだ。
 従って、彼女たちは外の世界の事を知らない、当然学校など通わせるはずもないので外界の情報源は客のみだが、1時間コースの客だと会話もする暇なくダッチワイフ代わりに使われて終わりだ、たまに泊まりで買ってくれる客がいても、クローンにはあまり外の世界の事を話さない、と言うのが社会常識になっているので当たり障りのないところまでしか話してもらえない。
 その一生をC-インで過ごさざるを得ないのだが、同僚はみな同じ境遇、そしてクローン女たちの身の回りの世話をするのも、年齢を重ねて客がつかなくなったクローン女、それが当たり前の世界しか知らないので特に疑問を感じることもない、それがクローン女たちの現実、彼女たちはいわばC-インの『備品』なのだ。

(さて、今日はどんな娘が良いかな……)
 俺は開いているドアから物色しながら廊下を進んだ。
 俺の好みはあまり一定していない、はっきり言って気分次第で変わる。
 そもそも、その夜限りの付き合いなので、あれこれ悩む必要もないのだ。
 ランチを例に取れば和食、洋食、中華などなど、街に出れば店はよりどりみどり、中には和食しか食べないとか、大抵は中華だ、なんて向きもいるだろうが、ほとんどの人はその日の気分でメニューを決める、クローン女選びも同じことなのだ。
 俺の場合、18~20歳くらいで大人しい感じ、太過ぎず細過ぎずと言った辺りを最も好むとは言えるだろうが、20代後半の水商売風とか包容力のある熟女系を選ぶこともあり、やはりその日の気分次第だ。

 その日、あるドアの前で、俺の足は吸い寄せられるように止まった。
(おいおい、マジかよ……俺はどうしちまったんだ?)
 俺は自分自身に驚いていた。
 そのドアの中にいたのは、まだ胸もろくに膨らんでいない少女だったのだ。
 ローティーンと思しきクローン女が出ている事自体は珍しいことではない、これまでも何度も目にはしている。
 そもそも、新生児状態からC-インの負担で育てなければならないのだ、需要が多かろうが少なかろうが性交可能な年齢になれば店に並べるのが当然、ただ、今までは目にはしても気に留める事はなかった……なのに、何故そのドアの前では引き寄せられるように足が止まってしまったのだ。
 前の客を送り出したばかりなのか、その娘はこちらに尻を向けてせっせとベッドを直している、その尻に、と言うより腰つきにかすかな『女』を感じ、一方でいかにも華奢な背中が愛らしい……その対比がなんとも新鮮に感じられたのだ。
 最後にポンポンと枕を叩いてベッドメークを終えたその娘は、初めて俺の視線に気付いたようで、きょとんとした顔つきで俺を見つめている、その顔を純粋に『可愛い』と思った……子供として可愛い、それもある、しかしさっき目にした、女らしさを示し始めている腰や腕の中にすっぽり納まってしまいそうな背中、それを腕に抱きたいと思った、剥き出しの性欲を感じたわけではないが、その儚ささえ感じさせる体を抱いてみたいと感じたのだ。

「今から……いいかい?」
 本当はぐるっと一回りして品定めしてから今夜の相方を決めるつもりだったのだが、視線が合った途端、俺はそう口にしていた。
「あ、はい、大丈夫です」
 その娘はニッコリと笑い、俺は吸い寄せられるように部屋に足を踏み入れた。