悠久たる時を往く 〜終焉の時、来たりて〜
一. 魔導の復活
[世界に復活する魔法]
アリューザ・ガルドの安定期、“諸国の時代”において、失われていた魔法が再び復活した。
詳細については書物『赤のミスティンキル』にて語られるとおりである。
アズニール暦1197年のこと。
アリューザ・ガルド全土で“色褪せ”という異常現象が突如発生した。世界において自然の景色がおしなべて色あせて見えるようになったのだ。
結果からするとこの現象自体は、アリューザ・ガルドに悪影響を及ぼすものではなかった。しかし、世界の住民達はそうは考えないもの。人々は不安を募らせ、都市部においては「冥王が復活した」という流言飛語が飛び交い、恐慌状態にまで陥る事態になった。
事態を収拾させたのは二人の若者であった。ドゥロームのミスティンキル・グレスヴェンドとエシアルルのウィムリーフ・テルタージ。物質界から離れ、“炎の界《デ・イグ》”に赴いた彼らは龍王イリリエンに謁見した。
龍王は、アリューザ・ガルドの真理について語った。
【アリューザ・ガルドの世界には二つの“色”が存在している。それは“留まる色”と“流転する色”だ。
“留まる色”は、事物の奥深くに内包されることで恒久的に魔力と色をもたらす。
“流転する色”は世界の深層部を流れている。“色”を常に循環させて、事物に彩りを保たせているのだ】
【“色”の流れが淀んでしまえば、世界の色もくすんでしまう。かつての人間が“魔導の暴走”を経て、力ある魔導を封じたのはいい。……が彼らはそれと知らず、“流転する色”をもせき止めてしまった。幾百年を越えた今、その影響が現れ始めたのだ。これが世界に起こりつつある異変の原因よ】
【魔導を解き放て。“色”の流れの閉塞を解くには、それ以外すべがない。月に行き、その地に封印された魔導を解き放つのだ】
こうして龍王の命を受けたミスティンキル、ウィムリーフの二者は月の界まで飛躍した。
そこで彼らはユクツェルノイレ・セーマ・デイムヴィンに邂逅する。魔導師ユクツェルノイレ。“まったき聖数を刻む導師”なる二つ名を持つ、かつての大魔導師である。三者の類い稀なる魔力の発動によって、月に封じられた魔導は解放されたのだ。
これをもって“色褪せ”は消え失せ、アリューザ・ガルドは元の姿を取り戻した。
[フェル・アルムの魔法学校]
解放された魔法の力をあやまたず用いるため、フェル・アルム島で魔法学校が設立された。初代の長はウェインディル・ハシュオン。彼は魔導師ユクツェルノイレの友人であり、“礎《いしずえ》の躁者”として名を馳せた、屈指の大魔導師である。ハシュオン卿の死後は弟子のエリスメア・メウゼル - ティアーがよく跡を継ぎ、魔導を含めた魔法学をさらに発展させていった。
[権力者の思惑]
こののち魔法はアリューザ・ガルドに浸透し、文明の大いなる進歩を促した。
人々の暮らしは向上し、やがて魔力を動力源とした船が空を飛び交うまでに至った。
この空駆ける船は新たな戦乱を呼び起こす。
時の権力者たちは飛行戦艦の建造のみならず、魔法のさらなる戦争利用をも企んだ。だが、フェル・アルムの魔法学校で学んだ魔法使いたちは固くこれを拒んだ。欲に堕ちた妖術師が現れたとしても、彼らの行使する魔法は限定され、また拙いものであったため、魔法が戦争の道具として用いられることはなかった。
[レオズスの動向]
ディトゥア神族の“宵闇の公子”レオズスは失われた聖剣、すなわちガザ・ルイアートを求めて、物質世界から離れた諸世界を彷徨していた。
一方で彼は、分身である影の龍に役割を与えた。この龍は長らく、東方大陸《ユードフェンリル》のアルトツァーン王国の南、“黒き大地”に住まうものであった。“黒き大地”とは、“魔界《サビュラヘム》”へ通ずる大要塞の扉があった土地――すなわち“禁断の地”である。
影の龍は、それと知らず“黒き大地”に住む村人たちに役割を課した。“禁断の地”を外敵から守る守人《もりびと》として。守人となった彼らは屈強な戦士へと自らを鍛えていく。そして勇猛なるその血統は代々受け継がれていき、やがてかの“ダフナ・ファフド”に至ることとなる。
なぜレオズスがこのような行動を起こしていたのか。彼は恐れていたのだ。冥王ザビュールの復活を。
[滅びへ向かう世界]
――それから幾百の年が過ぎ去る。
魔導師のひとりが、“魔界《サビュラヘム》”の胎動を予言した。
作品名:悠久たる時を往く 〜終焉の時、来たりて〜 作家名:大気杜弥