オヤジ達の白球 41話~45話
ソフトボールのバッテリー間の距離は14,02m。
野球の18,44mよりはるかに短い。
それだけではない。
投手は、ピッチャーズサークルの半径2,44mぎりぎりまで前へ跳ぶ。
11m余りの至近距離から、威力のあるストレートや緩急の有るチェンジアップや
上に浮き上がるライズボールが飛んでくる。
そのため。110キロの速球がバッターから見れば160キロに相当する。
手元を離れてから振り出したのでは、はるかに遅い。
ボールがリリースされる直前。
打者のバットは上から叩くための始動をはじめている。
上から叩かなければ野球よりも大きく重い球は、遠くまで飛んでいかない。
柊の読み通り。
こんどはインコースをえぐるようにライズボールが飛んできた。
(さすがにAクラスの好投手。想定通りの、インコースだ)
腕をたたんだ柊が、胸元へむかってせりあがって来る球を上から強烈に叩く。
こんども手ごたえは充分にあった。
しかし。対応が速すぎたため、バットを押し込み過ぎた。
3塁線上を飛び始めた打球が途中から軌道を変え、おおきく左へ切れていく。
「ファールボール。ストライク2!」
「いい投手だ。ひさびさに俺の闘争本能に火が付いたぞ!」
「ナイススイングです、2球とも。
おっさんだと思ってあなどっていました。
さすが伝説のホームランバッタです。スイングはいまだ健在のようですね」
「嬉しいねぇ。若い者からそんな風に褒められると。
君のリードも素晴らしいが、おたくの投手もなかなかのものだ。
次もとうぜん、ライズボールで勝負に来るんだろ」
「そのようです。
いまのスイングでウチのピッチャのやる気スイッチが入りました。
ライズボールをど真ん中へ投げたくて、うずうずしているのがわかります」
「それでこそAクラスのエースピッチャだ。
おかげでひさびさに、いい勝負ができそうだ。」
柊がふたたび打席を外す。びゅっと強く、思い切りバットを振りぬく。
(46)へつづく
作品名:オヤジ達の白球 41話~45話 作家名:落合順平