オヤジ達の白球 41話~45話
飛距離は充分だ。しかし。打球は右へ切れていく。
(振り遅れた!。手ごたえは充分だったが、押し込まれて1塁側のファールだ)
柊がバッターボックスを外す。
身体は覚えていた。しかし、長年のブランクがある。
魔球のライズボールに順応したと考えたのは甘かった。
もうすこし速くバットを振り出すべきだな、と何度も素振りをくりかえす。
柊のそんな様子を捕手がチラリと、横目で盗み見る。
(ほんものだぞ。油断できん。振り遅れてくれたから助かったが、危なかった)
2球目もライズボールで攻めようと、捕手がサインを送る。
(たしかに力強いいいスイングだった。
だが50ちかいおっさんに簡単に当てられるようじゃ、俺の目覚めが悪い)
こんどは本気で行くぞと、投手がライズの形に指をかける。
ライズボールは球の回転がいのち。
そのため親指は使わない。人さし指を寝かせ、中指をボールの縫い目にかける。
親指をかけておくとボールが安定し過ぎ、回転数があがらない。
投げる瞬間。ドアノブを右へひねる形ですばやく手首を返す。
ボールにバックスピンに近い回転を与える。
腕の振りが強くないとライズボールは上昇しない。
腕の振りを強くするために、右足を素早くひきつける必要がある。
1球目と比べると、投手の足の動きがはるかに速い。
(おっ、次も本気のライズボールで来るつもりだな。
好都合だ。それならそれでこちらも、早めにバットを振り出すだけだ)
作品名:オヤジ達の白球 41話~45話 作家名:落合順平