オヤジ達の白球 41話~45話
「おおっ。やっぱりのう。よく覚えておるぞ。
懐かしいのう~。あのとき球審をしていたのは、このワシじゃ。
凄かったのう。3発連続で場外へ消えていったあの超特大のホームランは」
「ずいぶん昔のことですが、覚えておられたとは光栄の至りです」
ドランカーズのベンチが、にわかに騒がしくなる。
「聞いたかいまの話。どうやら予告ホームランも、まったくの
眉唾ではなさそうだ」熱い視線が柊の背中へ集まっていく。
(なるほど。そういうことか。
どうりでいまでもドライバーが300ヤード飛ぶはずだ)
祐介もニヤリと笑う。
30年前の伝説のホームランバッターの登場に、球場内に緊張がはしる。
消防のマウンドを守っているのはAクラスで、3本指に入る好投手。
もっとも得意な球が、打者の手元でおおきく浮き上がるライズボール。
ソフトボール独特のこの変化球に、絶対的な自信をもっている。
しかし今日は、この決め球を一球も投げていない。
できたばかりの素人チームを相手に、決め球のライズボールを
投げる必要はないだろう、と最初から決めてきた。
しかしにわかに展開が変わって来た。
捕手が柊への1球目に、ライズボールを投げろと要求を出す。
(今日はじめてのライズボールの要求か・・・
いいだろう。相手は30年前のホームランバッターだ。
そのおっさんが、どんなもんだか、いまの力を見せてもらおうじゃないか)
ソフトで一番有名な球種が、ライズボール。
下から浮きあがってくる変化球だ。
魔球ではあるが打たれるとよく飛ぶ、という危険な球でもある。
野球のスライダーが、打たれると良く飛ぶ事と同じだ。
独特の変化で三振を取りやすい反面、強打者を相手にライズボールを投げるのは
危険すぎる側面もある。
(おっさんがどんなものか、全球、ライズボールで
勝負してやろうじゃないか。
いいか。気を抜くなよ。全力でライズボールを投げてこい!)
キャッチャーが、ポンポンとミットを鳴らす。
(45)へつづく
作品名:オヤジ達の白球 41話~45話 作家名:落合順平