赤秋の恋(美咲)
電車から降りたが、どこが出口かもわからなかったから、人の流れについて行った。階段を上ると、出口の表示が見えた。東口なのでその出口を探さなくてはならない。足利駅とは問題にならないほどの大きさであった。人口で言えば、15年ほど前は足利市のほうが多かったのた。何か自分の生まれた町が、他の街に追い越されてしまったことが、悔しいし淋しかった。 待ち合わせの時間は10時40分である。電車が到着したのが10時24分であった。トイレに寄ったのだが、駅を出るのに7分ほどかかっていた。宏は美咲を待たせては悪いと思い、足を速めた。それが自分の思ったように、靴が路面に着地しない。それに体のバランスも崩れて、まっすぐに歩いていないのだ。歩くこともこれほど格好が悪いのだなと自分で呆れていた。
駐車場に着いたとき、まだ2分ほど余裕があった。宏は携帯から、美咲に電話を入れた。
「宏です。駐車場にいます」
「黒い車です。駐車場の端に止まっています」
まだ店が開いて、早い時間で、駐車している車は少なく、一目でその車は見つかった。30メートルほどの距離があった。宏は足を上げて歩幅を大きく取りゆっくりと、その黒の車に向かった。全くの初対面だから、少しでも印象を良くしたかったのだ。