赤秋の恋(美咲)
宏は食事が済むともえとは別れたほうが良いと考えた。これ以上もえと話をしていれば、もえの誘惑に負けてしまうかもしれないと思った。
「そろそろ帰ろうか」
「食事はご馳走になりましたから、タクシーは私に払わせて下さい。私が車は呼びますね」
「ありがとう」
宏が会計をしている間にもえは車の手配をした。
店の待合室で10分ほど待つと、運転手が店に入ってきた。
「車をお呼びの方。お待ちどうさまです」
宏ともえは車に乗った。
「行き先は伝えました」
「気が利くね。ありがとう」
焼き肉店を出ると5分ほどで車はラブホテルに入った。宏は慌てたが、運転手にはその容姿を見られたくはなかった。呼び出しの料金を入れても3千ほどの料金だとは思ったが、5千円札を見つけ
「お釣りはいいですよ」
と言った。
ここまで来ては部屋に入らない訳にはいかなかった。
「騙してごめんなさいね」
もえはドアを開けると、階段を上がって行った。モニター画面を見ながら、チェックインを済ませた。
部屋の中は夜のとばりが下りたような雰囲気である。
「時間無いから、シャワーを浴びます。一緒に浴びますか?」
「僕は後で・・」
どこのラブホテルもそうなのだが、脱衣籠がないところが多い。ここもそうらしい。
もえは部屋の中で洋服を脱ぎ始めた。
「ごめんなさい。籠がないんです」
もえは脱いだ洋服を丁寧にたたんだ。下着姿になりそうなところで、宏はテレビのスイッチを入れた。白のインナーからもえの小さなバストのふくらみを感じた。
もえはその下着姿で浴室に向かった。
宏はメモ帳に走り書きをした。
僕は帰りますよ。
君の行為は嬉しいと思うけれど、やはり僕はどこかに教師だったことのプライド があるのかもしれない。
車代と部屋代を置いていきます。残りはもえさんが使ってください。
宏は部屋を出た。直ぐにホテルの従業員が追いかけて来た。宏の前に立ちふさがると
「お部屋の代金がお済ではないでしょう」
言葉遣いは丁寧なのだが、慌てて追いかけてきたからだろう、呼吸が荒いから口調は厳しく聞こえるのだった。
「まだ部屋には女性がいますよ。その女性が部屋代は支払います」
「喧嘩でも・・失礼しました」
宏は今、部屋代は払ってしまおうと思い
「部屋代は払っておきますよ」
「自動払いですから、ここでいただけません」
「部屋に確認してください。女性がおりますから、それまでどこかにいましょうか?」
「お帰り下さい」
宏はホテルを出ると腹は空いていないのだが食堂に入った。とても安らぎを感じたかった。
食べることも本能の一つだからなのか、宏は食堂は安らぎを感じた。