赤秋の恋(美咲)
小山から足利までは国道50号線を使っても50分ほどで行ける。北関東道路の高速道路もあるが急ぐことより会話が楽しみたいので、宏は50号で行こうと美咲に言った。
車が動き出して間もなく
「私のことで変に思うことはない」
と美咲が言った。
宏は変と言う言葉の意味が広すぎて
「変だってどんなこと」
「例えば体臭が臭いとか」
宏は美咲の身体からにんにくの臭いを感じたことがあった。その時は餃子を食べたのだろうと思っていたから、気にすることではなかった。
「焼肉とか餃子を食べれば臭いは残るでしょう」
「私の父は韓国人なのよ。母は日本人ですが、それでキムチを毎日食べていたの。20歳くらいまでね。恋人に言われたのよ。臭い」
宏は自分の加齢臭が気になっていたから、美咲が恋人にそんなことを言われたら、ショックは大きかったに違いないと思った。
「貧乏で、キムチだけがおかずだったから、やめようと思うのだけれど、ご飯だけでは食べられず、恋を諦めた」
「キムチ好きだけれど、そんなこと言われたことはないな」
「汗から滲みだすのよ。にんにくの臭いが・・・食べる量が違うから、日本の方からは臭わないと思う」
「餃子もお互いが食べていれば気にならないけど、確かに相手の臭いは気になるね」
「気になってもいいのよ。それを口に出すか出さないか」
「思いやりの問題だね」
「そうよ。うんこの臭いは誰だってするから・・」
「そうだね」
宏は妻がおならを宏の居るところでしたことを思い出した。
好きであればどんなことでも許せるのかもしれない。
今の宏は美咲の体臭が臭いとしても、自分の加齢臭と引き換えになるようで、かえって嬉しく思えるのだ。高齢と言うどうにもならないマイナスは、何かで補いたいのだ。
宏は足利に着くと美咲に3万円を渡した。美咲は
「ありがとう」
と嬉しそうな顔をした。宏はその顔を見ただけで3万円の価値があったと感じた。