赤秋の恋(美咲)
教え子
台風19号の後も雨が降り、仕事も休みなので、久しぶりに美咲とのデイト用の洋服でもとショッピングモールに出かけた。そこで大森に会った。
「社長さんおひとりですか?」
「暇なので気分転換に」
「奥様は?」
「友達と出かけましたよ」
「そうですか。帰りはお送りしますよ」
「それは嬉しいです。ビュートに乗れるのは楽しそうだな」
「個性的な車は好きですか?」
「個性的と言うか初めての物に興味があるんです。ちょうど昼時ですから、食事しましょう」
「ごちそうさまです」
「好きなものは」
「何でも大丈夫です」
「そう、うなぎは?」
「値が張るから、2年は食べていません。食べたいです」
「では、決めました」
宏はまだ洋服は買っていなかったのだが大森のビュートに乗り、うなぎ屋に向かった。その道沿いに、ラブホテルがあった。大きな看板と派手に塗装された建物だけに、すぐに目につく。
「社長さんは、精力ついたら奥様とですか?」
「僕の年では無理ですよ」
「まだお若いでしょ」
「嬉しいな。大森さんこそ、いい人がいるのかな?」
「いないですよ。社長さんみたいな方がタイプなんです」
「冷やかさないでくださいよ」
「からかってなんかいないです。先生に国語の古文教わりました」
「そうだったのか」
「そのころから先生に憧れていたんですよ」
「嘘だろうけれど、この年になると、くすぐったいな」
「きっと神様が2人の時間作ってくれたのよ」
「そうか、今日はゆっくりしたいな」
「約束よ。夜まで楽しみましょう」
宏は大森との思わぬ展開に躊躇いながらも、女性に対して大胆になっていた。好きなように生きてみたいと思う自分の残りの生き方が、本能の悦びを求めているのかもしれない。