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わたなべめぐみ
わたなべめぐみ
novelistID. 54639
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謝恩会(後編)~その手に花束を~

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 いたずらっぽく笑ってマイクの前に立った。隣でテレキャスターのかき鳴らす陽人の口元にも笑みが浮かんでいる。サイドシンバルとスネアを叩く晃太郎がこちらを見る。湊人たちの演奏を思い出す。最初はE♭m、次にA♭、そこから怒涛のB♭m――

「わかったわよ!」

 初音が髪を耳にかけて鍵盤に指をそろえると、要は口をあけて笑った。

「『talking machine』いくぜー!!」

 要がマイクに向かって声を張り上げる。厨房の奥から「イエーイ!」と複数の声が聞こえる。奥の席にいたタキシード姿のオーナーも一緒になって手を上げている。

 晃太郎がスネアドラムとタムを交互に激しく叩いている。信じられないほど速いテンポでバスドラムのペダルを踏む。初音は彼のリズムを取りこぼさないようにしっかり聞き取って鍵盤を叩く。要がアコースティックギターから手を離し、指を天井に向ける。

「one! two!」

 胸の底がざわめく。パンクロックの地響きが足元からせり上がってくる。音の波動がせまってくる。プレイヤーと観客の意識が混ざりあうあの瞬間がやってくる――

 ――ワン! ツー! スリー! フォー!――



(おわり)