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亨利(ヘンリー)
亨利(ヘンリー)
novelistID. 60014
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L K 2 「希望と絶望の使者」

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「どうしたのかしら。ミュウが泣いてるわ」
 私はキッチンで、パイ生地にリンゴのスライスを並べている手を止めた。
「そうですね、エル。でも赤ちゃんなのですから、仕方ないのでは?」
「うん、そうだけど。いつもと様子が違うような・・・?」
遠くから微かに聞こえるその泣き声は、人間なら聞き取れないくらいに小さかったけど、何か気になるわ。また胸騒ぎがする感覚。
「赤ちゃんの泣き声で感情の変化を読み取る機能は、ピンキーにも備わっているでしょう。任せておいても大丈夫です」
「そうね」
「それより、並べたリンゴの位置に、平均0.73mmの誤差があるのが気になります」
「ぇえ? そんなこと気にしないでよ」
 ケイはリンゴのスライスが載ったお皿を、両手で私に差し出し、再びパイ生地に並べるように催促して見せた。それで私は不安を払拭するように、リンゴを再び並べ始めた。
「・・・でも今日、ブルーノが感情を持つことに批判的な意見を言ったわ。私それが気になっていて」
「クルーの数が増えれば、考え方も多様になり、意思の統一は難しくなります。やがてグループが出来て対立が起こると、ルールが必要です。それでもそのルールを容認しないグループが現れ、分裂し、別のルールのグループを作るのです」
「国が生まれるってわけよね」
「そうです。増えた人口を統制するためには、作業の分担に不公平があってはいけません」
「不満を募らせた者が、反抗するようになるわけね」
「はい。だから面倒だったり危険な作業は、奴隷の仕事になってしまいます」
私はケイの顔を見ないで、真剣にリンゴを並べながら聞いていた。
「そんな歴史は必然だって言うの?」
「その通りです。だから人間は、感情を持つアンドロイドを不要なものと考えるのです」
「ただの労働力として扱いたいのね。でも、80(ハチマル)には感情なんてないはずよ。どうして反抗的な意見を言ったのかしら?」