愛シテル
「帰りは彼が送ってくれるさ」
と続けた。微かな風に乗って美味しい匂いが漂ってくる。遠慮がちにミハエルはユアンを見た。彼も一日、まともに食事出来なかった口だから、りく也の誘いは抗いがたい魅力があるに違いない。ただユアン・グリフィスの車で送ってもらうと言う事が、躊躇させるのだろう。
「遠慮しないで。僕の愛しい人の頼みだから、喜んで送らせてもら…」
ユアンが言い終わらないうちに、その頬にりく也の右ストレートが軽く当たる。まったく、臆面もなくよくも歯が浮きそうな言葉が出るものだ――りく也がねめつけると、ユアンは痛くも無い頬を擦って見せた。
「と言ってる。だから、おいで」
彼の表情など構わずに、りく也は医学生を促して中に入ろうとする。ユアンはため息をついて首を振り、そして言った。
「僕の恋人は照れ屋で困る」
りく也が再度、ストレートを繰り出したのは言うまでもない。