コート・イン・ジ・アクト5 墨須夫妻
こないだの〈川崎縄の檻事件〉で最後に殺人をやらかしかけたあの男が、やはりまるきりそんな考えの創造野郎だった。ただしキリスト教でなく、なんでも主は冥王星で――つまりあの星は実は一個の知性体で人を創造したのだけれど、天文学者が自分を準惑星としたのに怒って殺人予知者を発生させたとか、そんなことを言ってる新興宗教で、だからすべては「もう一度惑星として認めないと人類をみんな滅ぼしてやるゾ」という冥王星様の警告なんだそうだ。
弁護士が精神異常の根拠としてこの話を出した時には、裁判員の間から「実は私も特に理由はないのだけれどなんとなく冥王星って好きだから、惑星に戻してほしいような気もする」という声が出たとか出ないとか。でもやっぱり責任能力を認めて有罪。
神奈川の今の人口が八百万。その2パーの十五か十六万人が予知システム廃止を叫ぶ人間で、その半分が創造論者だ。事件があるたびそれらのイカレポンチ達が加害者擁護にまわるため、本来おれは犯罪と戦うのが職務のはずがいつの間にか狂信と戦うハメになってたりする。殺人課員の宿命でもあるのだが、しかしまたかよ。あんまり関わりたくねえなあ。ちょっと勘弁してほしいよな。
おれは明日は休みなんで、寮でゴロゴロしたいんだけど。
作品名:コート・イン・ジ・アクト5 墨須夫妻 作家名:島田信之