グレイ家の兄弟 Lycanthrope
G4が噴水で有名な大型広場の「ソルシティスクエア」に足を踏み入れると、ちょうど同じタイミングで、腰に布か何かを巻き、カーキ色のトレンチコートを着た銀髪の壮年の男が向かいから歩いてきた。しかも、手の甲で荒々しく口を拭きながら。G4は、彼が普通の人間ではないと直感した。男はG4を一人一人見ると、口を閉じたまま不敵な笑みを浮かべた。
「強者のオーラを発しているのは、おまえたちか」
「誰なんだ、あんたいったい」
フレディがその男をにらみながら尋ねると、男は軽く笑って答えた。
「俺か?俺はライカンスロープ。『滅びをもたらす獣』だ」
「獣」というワードを聞き、G4はファイティングポーズをした。ライカンスロープと名乗る男は、腰に巻いていたものをおもむろに外し、それを彼らに見せた。
「このカーディガンに見覚えはあるか?」
そのカーディガンは女性物で、かなり広範囲に血のりが付いていた。ジョンがあっと息をのんだ。
(あのカーディガン、前に僕たちをだました女が着ていたものだ…)
「おまえ、あの女に何をした!?」
彼が思わず大声で尋ねると、男は見下すような顔つきをした。
「あぁ、あいつは俺が消した」
男が話した事実の衝撃の大きさに、G4は声が出なかった。
「あの女がガルーを裏切ったからか」
ブライアンが問うと、男はぞっとさせる声と目つきで答えた。
「いいや、やつがホモ・サピエンスだからだ」
それを聞いたG4は、凍り付いた。
「もっとも、あの女はイージーモード以下で、俺にとっちゃ退屈でしかなかったがな」
ライカンスロープは、女の形見のカーディガンをポイ捨て感覚で放り投げた。彼の態度に、G4は怒りを燃やした。しかしライカンスロープはニヤリと笑った。
「強者のオーラをまとうおまえたちが相手なら、難易度の高いゲームが期待できる」
そう言って彼は髪をかき上げると、瞬時に銀色と紺色のツートンカラーの人狼に変化した。
「では始めよう、ラストステージを」
「ガルーめ!弟たち、行くぞ!」
「「「っしゃあ!!!」」」
G4は、ライカンスロープに向かって突進した。しかしライカンスロープはフレディの頬にフックを喰らわせ、ブライアンを片腕だけでなぎ払い、ロジャーのキックをしゃがんでよけたのちに逆にハイキックを浴びせ、ジョンの後方に回って彼の首元にチョップをお見舞いした。
「普通の技じゃ勝てねえな」
頬を気にしながらフレディがそう言うと、拳に炎をまとわせ、ライカンスロープに向かってダッシュするとその胸にパンチを一発打ち込んだ。
「うおっ!」
炎を使った攻撃を喰らってライカンスロープは少しふらついたが、すぐに体勢を立て直すと胸を軽くはたいた。そしてG4からある程度の距離を取ると、ハイジャンプして全身に紫色の炎をまとわせた。
「俺の後ろに隠れろ!!」
ライカンスロープの様子を見たブライアンが大声で言うと、ほかの兄弟たちはそのとおりにした。ブライアンは両腕を大きく広げ、自分の姿がすっぽり隠れるサイズの水の盾を出現させた。その直後、ライカンスロープはG4のほうへ頭からダイブしてきた。
ブライアンの作った水の盾のおかげで、G4はやけどこそ負わなかったが、ライカンスロープのダイブの衝撃はすさまじく、彼らは全員水をかぶって後方へ転倒した。
ライカンスロープは土を払いながら立ち上がると、瞬間移動のように素早くジョンのほうに行き、その右腕を両手でつかんだ。
「…!」
ジョンは全身の毛が逆立ちそうになりながらも、必死で抵抗して人狼を振り払おうとした。しかしライカンスロープは悪そうな笑顔でジョンを見た。
「その腕、骨もろともかみちぎってくれる!」
そう言って、ライカンスロープは鋭い牙が何本も生えた口を大きく開いた。
「うわっ!」
ジョンがきつく目を閉じて叫んだ瞬間、強い電撃がライカンスロープの背中を直撃した。ロジャーが10万ボルトの雷を放ったのだ。
「ありがとう、ロジャー兄さん」
「なぁに、当たり前のことをしただけだ」
ロジャーが答えた直後、ライカンスロープが襲ってきたが、彼はタイミングよく攻撃をガードした。
そのとき、フレディが弟たちを呼び寄せた。
「ブライアン、ロジャー、ジョン、ディヴァインフォームだ!」
「「「OK!!!」」」
「「「「Divine Form!」」」」
G4はディヴァインフォームを発動した。
作品名:グレイ家の兄弟 Lycanthrope 作家名:藍城 舞美