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コート・イン・ジ・アクト4 あした天気にしておくれ

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おれはテレビのチャンネルを変えた。森田夫妻の記者会見をやっていた。夫婦揃ってうなだれて、記者団からの質問にもボソボソ応えているようすだ。

『〈不起訴釈放〉ということですが、今の心境は?』

『エアガンで我が子を撃ったことを否定しますか?』

『事件前の二日間に、おふたりだけで旅行されていたことについて――』

フラッシュの光がバシバシ当てられている。

零子が言った。「パイになったからと言って、〈無実の人物報道〉がされるわけではないみたいね」

「まあ、この場合そうかもな」

〈疑惑の人物報道〉だった。当然だろう。マスコミどもはこの展開にむしろ小躍りしているはずだ。事件の熱が冷めないところにまた大きな波がやって来てくれたのだから。

チャンネルを切り替えながらニュースを見ていく。ある番組では、検察の不起訴について説明していた。少年の脱出については、『ただ予知が外れただけ』と考えているようだった。つまり予知が完全ではなかったために、犯罪の現認がなく起訴ができなくなってしまったわけですが、これは警察の行動になんらかのミスがあったのではないかと――。

言ってろ。また別の番組では、『この夫婦がなぜ自由になるのか』と怒りの声を上げていた。森田家での虐待に見て見ぬフリを決め込んでいた区役所、児童相談所、幼稚園に学校、近場の警察署――それらを再び槍玉に挙げ、『いつまでこれを繰り返すのか』と吠えたてる。

スタジオでタレントのひとりが言った。

『それはアタシも、子供を檻に入れたいなんて思ったことはありますよ。でもだからって、それをほんとにやる人間がありますか!』

これに対して児童虐待問題の専門家が、専門家らしくゴニョゴニョと応える。

『いえ……ですから、どんな親でも子供を檻に入れたいと考えることがあるはずなんです。だからこれを一概に〈虐待〉と決め付けることがあってはならず……』

『だからそれはわかってるって言ってるでしょ。ほんとにやるのはおかしいじゃないですか!』

とまたそのタレント。零子がテレビを見ながら言った。

「まあこれが、まっとうなものの見方よね」

「だろうな」

とおれも言った。世の中には、犯罪者の味方が好きな者達がいる。世の中に悪い人間などいません。悪いことをしてしまった人がいるだけです。罪を犯してしまうまでには、必ず多くの深い事情があるはずです。

だがそんなのは幻想だ。ボーイズラブ小説を読み耽る腐女子が夢見るものとなんら変わるところがない。

確かに世の中、斟酌する余地のある犯罪者ってのはいる。しかし映画や小説のように加害者だけに都合良く作られた話と違い、現実の事件において〈事情〉とやらをよくよく聞いて、まっとうな人間が最後に言う言葉と言えば常にこれだ。

『だからってあんた、なんだってそんなことをしちゃったの? 普通はそこまでいく前に「これはヤバい」と考えそうなもんでしょう!』

森田夫妻は人々からガンガンとっちめられていた。子供を檻に入れたいと思ったのはわかるけど、ほんとにやってどうすんの。防寒シートをやったのが愛情の証(あかし)ですじゃあないよ。あんたら一体こんなこといつまで続くと思っていたの。いつか破綻が来て終わるとは思わなかったの。

虐待をやめる機会はいくらでもあったはずですよねえ。小学校に上がるときとか、民生委員が訪ねてきたりしたときとか。『なかった』とは言わせないよ。児童相談所だってなんだって、まったくなんにもしなかったっていうわけでもないみたいだし。結局のところあんたらが、どこかでどうにかしようと思えばどうにかできたんじゃないんですか。それが一体なんだって、こんなことになったんですか。

零子が言う。「ちょっとまずいかもしれないね」

「ん? 何が」

「この夫婦、あの川崎のマンションには帰れないでしょう」

「そんな心配してんのか?」

「そうじゃないよ。この夫婦ってある意味普通の人間じゃん。弱くて卑怯でしょうがないけど、どこかマジメと言うんだか、いったん何か始めるとトコトンまでやりかねない。パチンコで負けても打つのやめなくて使っちゃいけないカネを下ろしに行くような――」

「佐久間さんもそんなことを言ってたな」

「たぶん、自分達がどうして人に怒られてるか、ほんとのところあんまりよくわかっていないと思うな。追いつめられると何をするかわからないよ。『子供を連れて心中する、それがワタシ達の愛情だーっ』なんて叫んでトモノリ君だけ殺すとか」

「そんなもん、予知が……」

「されるよ。けど、そういうことが、この人達の頭でちゃんとわかると思う?」

「うーん」

無理かもしれんなあ、と思った。殺人予知があるというのに故殺がちっともなくならない。それが当たり前で、減るわけないんだ。人を殺すやつはバカなんだから。パク(捕縛)ってみるとどいつもこいつも、『うまくやれば予知なんかされないだろうと思ってた』、そう言うんだ。絶対にな。

そうでないのがいないんだから。なんだよ、〈うまくやれば〉って。