グレイ家の兄弟 Captive Brothers
― 数時間後、G4が目を覚ますと、だだっ広い空き地に立てられた4本の杭に縛り付けられているのが分かった。
「うわ、何だこりゃ、縛られてる!」
「そんな…」
「くそっ、離せ!」
フレディ、ブライアン、ロジャーが抵抗するように体を小さく動かし、ジョンが泣きそうな顔で宙を見つめていた。そこへ、あの美女と雌のガルーたちが彼らの前に歩いてきた。
「あっ、君は!!」
フレディが大声で言った。美女はG4の顔を見るや高笑いをした。
「アッハハハハ。あなたたちは見事なまでに引っ掛かってくれたわ」
「ぐっ、ハメられた…」
ブライアンが悔しそうに言った。
「ご覧。ここに居る3体は、今まであなたたちが倒したガルーの母たちよ」
3体の雌のガルーは、わが子を殺された怒りの目でG4を見つめた。
「私ノカワイイ息子ヲイタブッタ末ニ殺シタヤツラメ…」
「アノ子ガ息絶エタトキノツラサヲ思ウト…」
「オマエタチサエ居ナケレバ…」
恨み言を言う母ガルーたちに、ロジャーはふざけるなと言わんばかりの視線を送った。
「クズは親もクズだな」
その横で、ブライアンが美女に問いかけた。
「まさか、君もガルーなのか?」
「いいえ、私は生まれたときから人間よ」
「じゃあなぜ君はガルーに味方する?」
「その質問を待っていたわ。答えてあげる。彼らが保護すべき『弱小』部族だからよ」
美女はドヤ顔で答えた。
「何が弱小部族だ。自分より弱い人間の命を平然と奪うやつらだぞ!」
ジョンが次第に語気を強めながら言ったが、彼女はひるまなかった。
「あなた、分からないの?個体数が少なければ、それだけで『弱者』なのよ」
「や、そんな論理分かんねえ」
フレディが眉間にしわを寄せて言った。
美女はフレディを一瞥すると、母ガルーたちを集合させて言った。
「ゲームのルールを言うわ。年少者から一人ずつ消していき、最後に残った者を『早い者勝ち』で仕留める。そしてそれに成功した者が、ラストステージに進出できるわ。分かったかしら?」
母ガルーたちは、黙ってうなずいた。
G4の四男ジョンは恐怖に震え、涙目で首を細かく横に振った。
(僕が真っ先にやられる…嫌だ、そんなの嫌だ!!)
しかし杭に縛り付けられているので、当然逃げることはできない。G4は絶望感に襲われたが、ブライアンはわずかに自由の利く指先を動かして、自分の手を縛っているひもを解こうとした。
「では、ゲームを始めなさい」
美女は冷徹な口調で言った。G4が最初に倒したガルーの母は、近くにあった大きな石で自爪を研ぎ始め、2番目に倒したガルーの母はロジャーと向かい合って冷たい目で彼を見ながら、鋭い爪で自身の腹部に縦線を書くようなアクションをした。これにはさすがのロジャーも
「やめろ…」
と言いながら目を背けた。前回のバトルで倒したガルーの母は、用意していた丸太を持ってブライアンの真向かいに行き、殺傷能力の高い牙でその丸太をかみちぎった。彼女のその行動が意味することを理解し、ブライアンは即座に全身の毛がぞわっとよだった。
そして性悪美女はフレディの目の前まで移動すると、おもむろにタバコとライターを取り出し、一服した。そして今度は彼の横まで動き、その耳元で言った。
「ねえ聞いて。面白いお話があるの」
フレディは震えたが、女をにらんで言った。
「どんな話だ」
「ふふっ、実はね、ソルシティ市警の活動をストップさせていたのは、私なの」
「何だって!」
フレディの大声に、隣に拘束されているブライアンが思わず彼のほうを向いた。
「私自身がソルシティ市警のお偉いさん方への『蜜』となったのよ」
「…やっぱりそうか」
彼女の発言を聞いたブライアンは怒りの目で彼女を見たが、母ガルーに首を触られ、その心は再び恐怖に満たされた。
「あの人たちみんな、私の『お相手』をするのを頑張ってくれたわ」
そこまで言うと、性悪美女はフレディに顔を寄せて、一層低いトーンで言った。
「力を使い果たして、寝込むまでにね」
フレディは、この女に心の底から怒りを燃やし、歯ぎしりした。
それと時を同じくして、最初に倒されたガルーの母は爪を研ぎ終わり、砥石に使った大きな石を指差し、ジョンの目を見た。そして彼女は、ギラリと光る爪で大きな石をさっと引っかいた。大きな石は、きれいに五つに割れた。この母ガルーは再びジョンの顔を見ると、残虐な笑みを浮かべた。ジョンは震えが止まらず、必死で首を横に振った。
「いや、やめろ。やめろ、マジで!」
「オシマイダヨ、ホモ・サピエンス!」
作品名:グレイ家の兄弟 Captive Brothers 作家名:藍城 舞美