グレイ家の兄弟 Divine Form!
G4がドクター・フリックの研究所から自宅に戻る途中、こげ茶色のスーツを着たあの中年男を見た。フレディは眉間にしわを寄せて、
「あいつ、こないだ擦れ違いざま俺に何か言ってきたやつだ」
と言った。ブライアンは、自分が負けたときのことを思い出し、にらむようにその男を見た。
「よし、後を付けよう。やつが行動に出る前に、被害を食い止められるかもしれない」
ほかの兄弟たちは互いにうなずき合い、ブライアンの提案に満場一致で賛成した。G4は相手に気付かれないように細心の注意を払いながら、その男を追跡した。
追跡開始からおよそ5分後、こげ茶色のスーツの男は、1軒のパン屋の前で立ち止まり、ドア越しに店内をじろじろ見ていた。G4も、目を凝らして彼の様子をうかがっていた。しかしわずか2分後、彼は店に入らずに再び歩き出したため、G4も追跡を再開した。
こげ茶色のスーツの男は、パン屋の2軒隣の建物の前で足を止め、それをじっと見た。その看板には、「COSY CHILDREN’S HOUSE」と書かれている。どうやら児童養護施設のようだ。男は悪意100%の笑みを浮かべると、全身がこげ茶色の毛で覆われた「本来の姿」に戻った。
その瞬間、フレディが怒りいっぱいに
「ガルー!!」
と叫んだ。呼ばれたほうは、イライラ顔でG4のほうを向いた。
「コノ前ノホモ・サピエンス、マタ来タノカ。今度ハ仲間モ連レテ」
するとブライアンが律儀に答えた。
「仲間というより、兄弟だ」
「ホウ。ソレヨリ貴様ラ、何度俺ノ『ゲーム』ヲ邪魔スル気ダ!」
三男のロジャーが、威勢よく答えた。
「弱い人間ばっかり殺すおまえらを、止めるためだ!!」
「フン…本当ハ体力を温存シテ『ラストステージ』ニ臨ムツモリダッタガ、状況ハ変ワッタ。貴様ラ4人ヲ、コノ場デ葬ル!」
そう言うと、ガルーはハウリングとともに、3体の分身を作った。
「うわっ、こいつ、クローン能力が!?」
ジョンが焦ったように言った。ガルーは、余裕たっぷりに言った。
「貴様ラニ面白ェ話ヲ聞カセヨウ。俺ハコウシテ分身ヲ作リ、複数ノ場所ニ散ラバッテ『ゲーム』ヲシタ」
G4は一瞬戦慄を感じたが、長男のフレディが
「そうなのか。そりゃご親切にネタバレどうも」
と返した。その直後、4体のガルーがG4一人一人に襲い掛かってきた。もともと腕っぷしの強いフレディは得意のパンチ攻撃や回転キックを浴びせようとしたが、パンチはことごとくガードされ、回転キックは命中前に跳ね返された。それでもフレディはすぐに立ち上がり、
「無駄な抵抗、するんじゃねえ!!」
と吠えると、両腕を交差させて突き出した。すると、彼の両拳から炎が出現し、ガルーに向かって進んでいった。二つの火の玉は見事に命中し、ガルーは炎に包まれた。
「ウハァッ…」
「よし!」
フレディは勝利を確信した。…しかし、ガルーは気合いで自ら鎮火させ、炎上から生還したのだった。
「ええーっ!?」
予想外の光景を目の当たりにして、フレディはショックを隠せなかった。そしてガルーは歯をむきだして笑うと、フレディの頬を力いっぱい平手打ちした。その衝撃は強く、フレディは地面に倒れ込んだ。
ブライアンはその長い脚を高く挙げ、分身のガルーにかかと落としを喰らわせようとしたが、振り下ろした脚を両手でつかまれてしまった。
(しまった!)
ガルーはフンと鼻で笑うと、ブライアンの脚を乱暴に押し上げて離した。ブライアンはバランスを崩し、派手に転倒した。しかし彼は険しい顔でゆっくり起き上がり、右手を高く掲げた。
「…でも、おまえの負けは決まったな!」
彼が自信満々に言うと、彼の右手の少し上に水でできた歯車が出現し、高速回転を始めた。
「たあーーーっ!!!」
ブライアンはまるでフリスビーを飛ばすように、その歯車を投げるアクションをした。水の歯車は高速回転しながら、ガルーの胴体を貫いた。
「ウオオッ…!」
その様子を見て、ブライアンは一度うなずくと小さくガッツポーズをした。しかしそれはぬか喜びだった。ガルーはその精神力で傷を自己回復させたのだった。
「そんな…!」
またも自分の技が通じないと分かったブライアンは、愕然とした。
(俺の技は、やつとは相性が悪いのか?)
「俺ノ負ケハ、決マラナカッタナ」
ガルーはそう言いながらブライアンに近寄ると、彼の胸ぐらをつかんで腹部にニーキックを浴びせた。
ロジャーはスピーディーな動きで雷をまとったパンチやキックの連続攻撃をしたが、分身のガルーはそれらを見事にガードし、ダメージを最小限にとどめた。それだけではなく、ガルーのほうもロジャーに劣らぬスピードで連続技を繰り出してきて、ロジャーも避けるのがやっとだった。
(こいつ、ガードもスピードもすげえや。何とか強力な一撃を出さないと…)
そこで彼はハイジャンプし、日本の某有名ヒーローのような空中キックを喰らわせようとしたが、ガルーは何と腕一本でそれを跳ね返した。ロジャーは背中から落下したが、幸いにも軽傷で済んだ。そしてガルーに向かって雄たけびを上げながら突進していったが、ガルーのパンチが彼の胸を直撃し、その勢いで吹き飛ばされてしまった。
ジョンは分身のガルーの攻撃をガードする一方だったが、わずかな隙を突いて渾身のカウンターブローをお見舞いした。それは確かにガルーにヒットしたが、人狼は体勢を立て直すとすぐにグレイ家の四男の腕を捕まえ、地面にたたきつけた。ジョンは起き上がろうとしたが、その前にガルーが彼の腹部に足を置き、じわじわと体重をかけてきた。
(や、やめろ…)
ジョンの目がそう訴えたが、情けを持たないガルーは嘲笑の目で彼を見て、
「コノママ貴様ノ体ヲ、中身モロトモ砕イテクレル!」
そう宣言すると、膝を曲げてそのまま脚を挙げ、勢いよく踏んできた。
「うわっ!!」
ジョンは素早く地面を転がってよけたため、最悪の状態は免れた。
そうしている間に、フレディは身に着けているブレスレットに目を向けた。
「そうだ!みんな、ディヴァインフォームだ!」
長兄の声を聞いて、弟たちが立ち上がった。
「よっしゃ!!」
G4は一斉に左手を挙げて拳を握り、右上から左下へスライドさせるように手を動かし、
「Divine Form!」
と唱えた。
作品名:グレイ家の兄弟 Divine Form! 作家名:藍城 舞美