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黒いチューリップ 05

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 安藤紫と加納久美子、どっちかを選ぶべきなのか。食事に誘っても未だにいい返事をくれない安藤先生を諦めようか……。いいや、それはできない。あの魅力的な尻を忘れられるもんか。ミサイルを撃ち込んでもいないのに。オレが諦めれば誰か他の男がミサイルを撃ち込むことになるのだ。そんなこと絶対に許せるもんか。俺が目をつけた尻だ。誰にも渡したくなかった。
 じゃあ、加納久美子を忘れるべきか。ああ、それも難しい。あの女は安藤先生みたいな尻を持っているわけじゃない。だけど、あの痩せた女には何か新鮮な魅力があった。若々しく、活力に溢れていて、躍動感に満ちていた。
 乗っている車はエアバックやABSも付いていない、十年以上も前のフォルクスワーゲンでマニュアル仕様だったが、それをサングラスを掛けて運転するする姿が実にスポーティでカッコいい。絵になっている。乗っただけで古い色褪せた乗用車をスタイリッシュにしてしまう女なんて、オレは今までに知らない。
 西山明弘は悩み続けた。超いい女が二人も自分の職場にいる。この幸運が信じられない。もしかしてこれは、どんなにブスでもしっかり女の相手をしてきたオレに対する神様からのご褒美か? それとも神様がオレに与えた試練なんだろうか。ここで、どう対処するかでオレの今後が決まったりして。
 可能性は低いかもしれないが、上手く立ち回って安藤先生と加納先生の二人をモノにするという期待は捨てていない。まるっきり有り得ない話じゃない。「あたし、二股でも構わないわ。これからも抱いてくれるなら」なんていう言葉を両方の口から言わせたら、これは最高だ。大成功。きっと神様も喜んでくれるに違いない。オレは人生の勝利者と言っていい。
 その勢いに乗って一気に教頭に、そして校長へと上り詰める。その後は教育委員会に迎えられて、もはや地元の名士と言っていい存在になるだろう。
 しかし問題は金だった。それなりの女を口説くには、それなりに軍資金が必要なのは経験から知っている。今のオレには、それが全くない。超いい女が二人もいるのに総攻撃を仕掛けられないもどかしさ。ここは手堅く、どっちか一人をモノにするというスタンスで行くべきなのか。
 上手い具合に加納先生には、自分が頼りになる男だと証明するチャンスが巡ってきていた。
 放課後、職員室で加納先生が生徒の佐野隼人と話しをしている時に掛かってきた電話だ。相手は板垣順平の母親だった。加納先生の顔から何か問題が起きたらしいと悟ったオレは、すぐに受話器を置いた彼女に話し掛けた。「どうしました」
 「……」
「何があったんです?」話すべきか躊躇っている加納先生にオレは強く促した。
「生徒のことでした」
「聞かせて下さい」
「うちのクラスの手塚奈々なんですが……」
「彼女が?」脚が長くて魅力的な女生徒だ。もしかして性犯罪に巻き込まれたか。
「板垣くんのお母さんが言うには、彼女、お好み焼き屋さんでアルバイトをしているみたいなんです」
「本当ですか?」何だ、そんな事か。
「いえ。まだ本人から話を聞いていないので、ハッキリしたことは分かりません」
「しかし知らせてくれたのは板垣順平の母親でしょう?」
「そうでした」
「だったら間違いはない。父親は中古自動車の販売を手広くしていて、地元の商工会では副会長を務めたこともあるらしいです。君津の商店街については知らないことは無いはずです」
「明日、手塚奈々に聞いてみます」
「加納先生」
「はい」
「お好み焼き屋のアルバイトなんか今だけですよ。すぐに稼ぎのいいスナックやバーで働くようになるでしょう。行き着く先は風俗店です。早いうちに辞めさせた方がいい」
「そうですね」
「ここは僕に任せてくれませんか」
「西山先生が手塚奈々と話をするということですか?」
「そうです。ただ叱るだけでは逆に反感を募らせてしまう。上手く彼女を説得してアルバイトを辞めさせてみせます。まだ中学生なんだから仕事なんかよりも学業に精を出すべきでしょう」
「それは、……そうですけど」
「加納先生、ここは学年主任の自分に任せて下さい」
 二年B組の担任である加納先生は当然だが、まず自身で対処したい様子だった。そこで自分は学年主任だということを強調した。
「わかりました。結果は教えて下さい」
「もちろんです」
 西山明弘には考えがあった。手塚奈々を言い聞かせてアルバイトを辞めさせれば、加納先生に自分は頼りになる男だという印象を与えられることだ。オレに対する見方が変わるはずだ。
 それともう一つ。あの手塚奈々という女生徒と話がしてみたかった。
 長い魅力的な脚をしていて、成長と共に最近は非常に目立つ存在になった。急に背が高くなった為にスカートの丈が短くなってしまう。見たくなくても視線は、その長い脚に惹きつけられた。
 スタイルは抜群だ。今すでにイイ女と言えた。これが数年後、女らしく色気づいて、化粧を覚えて、髪を肩ぐらいまで伸ばしたら、もう目が飛び出るほどセクシーな女になるんじゃないかと期待できた。そう考えると自分と歳が離れ過ぎていることが、とても残念でならない。
 だけど将来に何が起きるかは誰にも分からない。年月が経てば二人の歳の差は、どんどん縮まっていく。この機会に言葉を交わして少しでも親しくなっておくことはいいことだと思った。
 お好み屋のアルバイトなんて大したことない。そのぐらいの校則違反は誰でもやることだ。西山自身も中学時代から新聞の配達、御歳暮や御中元の配達で小遣いを稼いできた。
 叱ったりはしない。その長く美しい脚で目の保養をさせてもらっている恩義がある。働いているところを、口うるさい板垣の母親なんかに見つかったのが拙かったんだ。運が悪かったと思ってバイトはしばらく止めろ、と説得するつもりだ。ほとぼりが冷めたら、また始めたらいい。オレは味方なんだ、という印象を手塚奈々に残したい。西山先生は物分かりがいい思ってもらいたい。
 歳の差なんか関係ない。魅力的な女生徒と親しくなることは、キツくて単調な教員生活を少しでもバラ色に変えてくれる。西山明弘は手塚奈々を呼び出して話をすることが今から楽しみだった。
作品名:黒いチューリップ 05 作家名:城山晴彦