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黒いチューリップ 03

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「だったらオレは諦めようかな。キミと勝負して勝てる見込みはなさそうだ」
「……」本気で言っているのか、お前。まさか誘導尋問じゃないだろうな。
「しかし、あの下着をゲットするのは難しいだろうな。一人じゃ無理だと思う。良かったら、いつでも協力するぜ。いいアイデアあるんだ。考えてみてくれ」
 そう言い終ると奴は振り向いて、その場を離れた。オレは黙ったままだったが、なかなか内容のある話だった。佐久間渚のことは諦めてくれるらしい。ライバルが一人でも減ってくれるなら、それはいい事だ。チューリップ柄の下着を盗むことは一人では難しい、とも言った。それも同感だ。だけどオレは誰の助けも借りたくなかった。
 それから数週間が聡史の目的が達成されないまま過ぎた。苛立ちと焦り、募る欲求。次第に頭の中で協力を求めるという考えが大きくなっていく。悩み続けた。あのチューリップ柄の下着さえ手に入れば、佐久間渚の心を捉えたも同然という錯覚が秋山聡史を支配する。何が何でも早く欲しい。
 あいつに……、いや、人には頼みたくない。だけど、このままでは手に入れることは不可能だ。どうしよう。
 朝起きて、まずその事を考える。学校へ行きながら、その事を考え続ける。授業中もその事しか考えない。佐久間渚の近くにいる時は尚更だ。家に帰って夕飯を食べながらも、頭の中は渚のブラジャーとパンティでいっぱい。デレビを見てても、ずっとその事に思いを集中させている。
 今日、下校途中で佐久間渚と挨拶を交わした。嬉しかった。この問題を早く解決したいという気持ちは強くなった。あいつに……、「あ」と思わず口から声が漏れる。
 道の反対方向から同じクラスの篠原麗子が足早に通り過ぎて行ったのだ。何で、どうして。学校に忘れ物でもしたか。いや、そんなんじゃない。何か切迫した雰囲気があった。聡史と目も合わさなかった。彼女らしくない。
 あの女は嫌いじゃなかった。優しくて素直な性格で、それが顔立ちにも表れていた。誰からも好かれている。身長は百六十センチを超えていて、女らしい身体つきだった。ここ最近で、すごく色っぽくなった感じがした。制服を着ていなければ、もう大人の女性と変わらない。ボーイフレンドでも出来たんだろうか。そいつと喧嘩した直後だったりして……まあ、いいや。どうせ、オレには関係ない事だ。それより佐久間渚の下着の問題だった。もう待てない。一刻も早く解決したい。あいつが言う、いいアイデアというのを一度聞いてみたい気になっていた。それがオレを納得させられるものだったら、その時は協力を頼もう。それがいい。
 秋山聡史は久しぶりに気持ちが楽になった思いだ。さっそく明日の朝、あいつに声を声を掛けようそう決心した。
作品名:黒いチューリップ 03 作家名:城山晴彦