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秋月あきら(秋月瑛)
秋月あきら(秋月瑛)
novelistID. 2039
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堕とされしものたち 機械仕掛けの神

INDEX|36ページ/36ページ|

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「だったら、飲んでよ、あたしって第三のヒトなんでしょ?」
 ファリスは鴉の胴体を抱きかかえ、鴉の頭を自分の首元に持って行った。手も足もない鴉は抵抗することもできなかった。いや、抵抗しなかった。
「人間は人間として限られた時間の中に生きているからこそ、私たち天人[ソエル]の持っていないものを多く持っているのだと思う」
「御託はいいから早く飲んで」
 鴉の口は震えていた。渇欲は理性ではどうにもならない部分がある。そして、今の鴉は消滅に直面している状態にある。それでも鴉は歯を食いしばっていた。
 身体を振るわせる鴉の振動がファリスにも伝わって来る。
 鴉の口の奥に牙が光った。しかし、歯が砕けんばかりに口は開かれた。
 ファリスが小さく呟いた。
「飲んでいいよ」
 鴉の理性は限界にあった。そして、ついに鴉はファリスの首筋に牙を立ててしまった。
 ファリスは口を開け、目を見開き、自分の中からいろいろなものが吸われていくのを感じた。痛みはなく、身体が痺れたような感覚がするが、それも嫌ではなかった。
 鴉の中に生命が流れ込んで来る。渇きが癒え、腕が、脚が、再生していく。
 やがて、鴉はゆっくりとファリスの首筋から頭を離した。
 ファリスは喜び、鴉の身体を強く抱きしめると頬にキスをした。
「ほら、助かったじゃん。鴉が意地を張んなきゃ、すぐに済んだのに」
 笑い顔のファリスに対して、鴉の表情はもの哀しげな表情をしていた。
「永い時を生きるということが、いかに辛いことか……私は新たな罪を犯してしまった」
「何言ってんの? 鴉だって生きてきたんだから、あたしだって平気。だって、これからあたしは絶対鴉の側を離れないからね」
 〈アルファ〉が崩れる。〈アルファ〉の機体を構成していた物質が、灰と化していく。

 街に巨大な炎を降り注ぎながら飛んでいた〈アルファ〉が急に落下し、ビル街を破壊して大爆発を起こした。
 吹き荒れていた爆風が収まり、夏凛は再び〈アルファ〉に向かって走り出した。あの中にファリスが捕らえられている。生きているかどうかはわからないが、行かなければ夏凛の気は治まらなかった
「全くアタシも焼きが回ったなぁ」
 やがて〈アルファ〉の前まで辿り着くと、夏凛はそこに立ち尽くしてしまった。
 全く動く気配を見せない〈アルファ〉。身体を走っていた紋様も今では輝きを失っている。
「中で何があったんだか……?」
 夏凛の目の前で〈アルファ〉がガタンと揺れた。揺れたと言うより、崩れた。
 〈アルファ〉の身体が崩れていくのを夏凛は目の当たりにした。それも壊れていくのではない、機体が灰と化していくのだ。
 時間をかけて灰の山が形成され、それは一瞬にして空に舞い上がった。地上に灰が降り注ぐ――それはまるで灰色の雪であった。
 舞い散る灰の中から二人の人影が出てきたのを夏凛はしかと見た。それはまさしく、ファリスと鴉であった。
 思わずガッツポーズをした夏凛は笑顔で二人の元へ駆け寄った。
 ファリスも夏凛に気が付いたらしく駆け寄って来る。
「イエーイ、夏凛! 生きて還って来たよ」
 ピースをしたファリスを夏凛は抱きしめた。
「まあ、死ぬわけないと思ってたけど、よかった。でも、本当に生きてて嬉しいのは鴉っ! あれ?」
 夏凛は辺りを見回した。すぐにファリスも辺りを見回す。鴉がいない。
「ずっと傍にいてやるって言ったのにぃ〜」
 顔膨らませたファリスは地面を蹴飛ばした。そして、ため息をついて笑った。
「まあ、時間なんていくらでもあるっぽいから、いつでも探しに行けるか」
 ファリスの言葉に夏凛の顔が固まった。
「……もしかして、ファリス?」
「うん、そういうこと」
「ズルイ、ファリスだけズルイぃ!」
「そういう問題じゃないでしょ」
「そーゆー問題」
 呆れた顔をするファリスは夏凛の腕に自分の腕を回して歩き出した。
「早く帰ろう、あたしたちの家に」
「家はまだ探してない」
「そっか」
「それにあくまでアタシが主で、アナタは使用人だからね。死ぬまでこき使ってやる」
「夏凛の方が先に死ぬから平気だもん」
 灰の雪が降る中、鴉は二人を見守っていた。
 鴉は背負った罪を償うために永遠にファリスを見守り続けるに違いなかった。

 (完)