第八章 交響曲の旋律と
「お継母様、私に『砂(サブレー)』の作り方を教えてほしいの……。ハオリュウは、お継母様の作った『砂(サブレー)』の味を知らないから……ふたりで作って、皆で食べたいの……」
「……『皆』は、そこの彼も一緒かしら?」
継母の目が、メイシアを背後を見ていた。
メイシアは、はっとして顔を赤らめる。けれど、はっきりと言った。
「ええ、そう! 彼は、私の一番大切な人……」
継母は、ルイフォンを見ながら、眩しそうに目を細めた。その目尻から再び、すぅっと涙が流れる。
「お継母様?」
「彼は、貴族(シャトーア)ではないわね?」
「え、あ、あの……」
思わぬ言葉に、メイシアの心臓が鷲掴みにされた。ルイフォンを連れてきてはいけなかったのだろうかと、血の気が引いていく。
そんなメイシアを、継母はぎゅっと抱きしめた。
耳元で、そっと囁く。
「メイシアちゃんも、見つけちゃったのね?」
「え?」
「『だいそれたこと』をしてでも、そばに居たい人を」
いたずらな少女のように笑いながら、継母はメイシアから体を離す。
「……え? お継母様?」
メイシアはじっと継母を見つめ、そして、はっと思い出した。
『私は、だいそれたことなんて望まないわ。今のままがいいの……』
メイシアの父、コウレンにプロポーズされた継母は、初めはそう言って断っていたのだ。
「私、幸せよ。『だいそれたこと』をしたの、間違いじゃなかった」
今まで、ほとんど口も聞けない状態だった継母の言うことが、どのくらいしっかりしているのかは分からない。
けれど。
今の言葉は本心だと信じられる――!
「お継母様! 私も……! 私も、そう思うの!」
涙を拭い、メイシアは笑う。
「メイシアちゃん。大変なこともあると思う」
メイシアの肩に手を置き、継母が言う。
「でも、幸せなことのほうが、ずっと多いわ……」
継母の手が優しく動き、メイシアをルイフォンのもとへと送り出した――。
抜けるような青空の中を、二羽の鳥が飛んでいく。前に、後ろになりながら、どこまでもどこまでも……。
空の住人は、力強く羽ばたき、遙か天空を舞う。
悠然と、自由に――。
〜 第八章 了 〜
〜 第一部 完 〜
=== ご挨拶 ===
ここまでお読みくださり、どうもありがとうございました。
お陰様で、無事、第一部完結いたしました。
長い長い、この物語にお付き合いくださった皆様に、感謝申し上げます。
もしよろしければ、ご感想等くだされば、幸いです。
現在、第二部第一章を書き終え、第二章を鋭意執筆中です。
第一部では明かされなかった謎の数々が、少しずつ明かされています。
ただ、残念ながら、このサイトではほとんど読まれている形跡がないため、第二部の公開中止または他サイトに先行投稿したあとでの転載にしようと思っております。
もし、こちらのサイトでの公開を希望してくださる方がいらっしゃいましたら再考いたしますので、ご連絡くだされば幸いです。
以下のサイトでの公開を予定しております。
『カクヨム』 https://kakuyomu.jp/works/1177354054881135517
『小説家になろう』 https://ncode.syosetu.com/n6974cx/
しばらく書き溜めてからの投稿を考えておりますので、第二部の公開は数ヶ月のお休みを頂いてからとなります。
作品名:第八章 交響曲の旋律と 作家名:NaN