NEVER-最初で最後の大犯罪-
プロローグ
ある雨の日。
突然の天候の悪化に、運悪く傘を持ち合わせていなかった私は、暗い街中を走っていた。
街に人気はない。
遠くに見える空高くそびえ立つビルが私を見下ろしている。
――大都会。
そう世間一般に言われ続けているこの街にも、人気がない場所は幾つもある。
その1つが、今私のいる場所。
大都会の街中の裏には、小さな町がある。
古めかしい居酒屋や、如何にも危なそうな"借金肩代わりします"といった看板をぶら下げた建物があったりする。
歩道に沿って立つ電気は、チカチカと点滅を繰り返している。
そんな夜の町を、私はいつものように家へと帰る為に通る。
ぱしゃぱしゃと、道路に溜まった雨水が跳ね返り、制服がドロドロになる。
それでも私は走るのを止めない。
なんせ今の季節は冬だから、とにかく寒くて寒くて、早く家に帰りたかったのだ。
それに、こんな町の夜なんて、嫌い。
きっといつもなら見えているはずの濁った月も、この雨じゃ見えない。
だからといって、晴れてたって空なんて見ない。
そんな、濁った月なんて、みたくはない。
普通の家庭に生まれ育って、普通の高校に入って、普通の女の子として生きてきた私。
それが幸せで、それ以上のことも、それ以下のことも、自分には縁なんてないと思ってた。
ただ、1度だけした、引越しは最悪だった。
夜空に見えた星くずたちの輝きも、月の明かりも、この町にはない。
山も畑も動物も虫も、ない。
優しい村の人達もいない。
だから私はこの引越しが、嫌で嫌でたまらない。
両親の都合でこの地にやってきた私は、引越しが決まった時から、ずっと両親を許せないでいる。
そもそも、両親はこれを悪かったと思っているのかも曖昧だ。
そんなだから、私はこんな町に連れてこられても、内心何を思っていても、表には出せずにいた。
ずっと走ったおかげで、暗い夜道も、終盤に掛かろうとしていた。
遠くに実家が見えてきた。
(家に帰ったら、お風呂入って、制服洗って……)
息を切らしながら、そんな事を考え走っていると、ふいに建物の影から出てきた影に、思い切りぶつかってしまった。
「あだっ!」
ぶつかった衝撃で尻餅をつき、そして一気に走った疲れが来た。
「ごほっ、ごほっ……」
オマケに咳き込む。酸欠かも。
影が人だと分かり、私は慌てる。
「すみませんっ……」
「――……」
作品名:NEVER-最初で最後の大犯罪- 作家名:*Mi