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オヤジ達の白球 36~40話

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 寅吉の意図は、坂上に伝わった。
(了解した)坂上が、帽子のつばへ指先を伸ばす。
体の前で、ボールをセットする。
(停止は2秒。長くても5秒。完全に停止してから投球へ入るんだったな)

 坂上がぎゅっとボールを握りしめる。
すこしだけ間をおいて、投球のための動作を開始する。
いつものように大きく胸を張る。
左足を思い切り捕手に向かって踏み込む。
同時にボールを握った坂上の右腕が、風車のように弧をえがきはじめる。
はずだった。
だがどうしたことか腕も足も、金縛りのまま、まったく動こうとしない。

 (あれれ・・・なんてこった・・・いきなりの金縛りだ。
 手も足も、動き出すためのタイミングをかんぜんに見失っているぞ・・・
 どうしちまったんだ、いったい、俺の手と足は?)

 
 坂上の身体は投げ始めるためのきっかけを、まったくもって見失っている。
もじもじと情けなく全身をよじる。
(まいったなぁ、往生するぜ、この後におよんで・・・)
もじもじとしたまま、20秒、30秒と時間だけが経っていく。

 「タイム~!。どうしました、投手さん?。
 早く投げてくれないと、20秒ルールでペナルティになってしまいます!」

 千佳の凛とした声が坂本の耳へ響く。

 (えっ・・・20秒以内で投げろと言うルールまであるのか・・・
 知らなかったぜ!)

 坂上のうろたえが、絶頂へ達する。
ドランカーズのベンチにも同様のうろたえが走る。

 「いったいどうしたってのさ、坂上くんは。
 さっきまで元気はどうしたの。
 なんで身動きしないで、マウンド上で固まっているの?。
 信じられない、何してんのさ、あの単細胞は。
 こらぁ、坂上!
 もじもじしていないで、打者に向かってさっさと投げろ!」

 陽子の黄色い声が、夕闇がおりてきた球場内をひびきわたる。



 (39)へつづく