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Without you

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「どうだろう……白人男性と黒人女性だし、マライアはゴスペルっぽいところもあるからね、でもイントロが流れて来た時、あれ?っと思ったし、歌い出しですぐにわかったよ、雰囲気はあまり違わないな」
「綺麗な曲よね……歌詞は切ないけど」
「そうだな……」
 中学生当時は『Can’t give anymore』のくだりを額面どおりに『もう何もあげられない』と理解していたが、今はもう少し違う意味に取れる……『もう私には何もない』だ、それだけ全身全霊で愛していたと言う意味なのだろうと思う、曲調のせいもあるのだろうが、切ないけれど、前向きに一からやり直して生きて行こうと言うニュアンスも感じられる……。

「音楽じゃ、初めて趣味が合ったわね」
「そうだな……」
 にっこりと微笑んだ由美子は俺の方へ手を差し伸べて来た。
 俺も迷わず掌を重ねた。
 いつの間にか十三歳の由美子は消えて、今この時の由美子が目の前にいる。
 二十六歳……人生の次の局面に踏み出す準備はすでに充分整っている、成熟した大人の女性だ。
(たかだか十歳の年齢差を、俺はどうして気にしていたんだろう……)
 そんな気持ちだった、そして彼女も同じ様に感じてくれていたんじゃないかと思う……。
『Without you』はその橋渡しをしてくれたんだ。


 あれから二十四年、妻はいまだにマライア・ヴァージョンが最高だと言い張るし、俺は俺でこの曲はニルソン・ヴァージョンに止めを刺すと言い張っている。
 しかし本当はどっちでも良いんだ、微妙に離れていた俺たちの距離を一瞬で縮めてくれたこの曲は、今でも俺たちのテーマソングのようになってるんだからね……。


(終)


参考URL

https://www.youtube.com/watch?v=DUxOhH8yAio  二ルソンVer

https://www.youtube.com/watch?v=cUCCmzR_jfc  マライア・キャリーVer
作品名:Without you 作家名:ST