グレイ家の兄弟 Roger in a Rage
(黒っぽい灰色の服を着た、茶髪の若い男って言ってたな。どこに居るんだ…)
ロジャーが街中を走りながら例の男を探していると、何か笛のような音が聞こえた。一層注意深く聞いてみると、それは誰かの口笛の音だった。彼はその音をたどると、雑草の生い茂った空き地に着いた。そこには、少女の証言と完全に一致した外見の男が立っていた。ロジャーはその男をにらみつけると、静かに、しかし強く言った。
「おまえだな、小学生の子を無残に殺したのは」
男はうなずきながら答えた。
「ああ、俺だ」
ロジャーは別の質問をした。
「何日か前に老人施設のおばあ様方を殺したのも、おまえだな」
「ああ、俺だ。さてはおまえ、俺の娯楽の邪魔をする気か?」
男はそう言うと、限りなく黒に近い灰色の体毛の人狼に姿を変えた。ロジャーは、目を覆いたくなるニュースの映像や、研究所で保護した少女の涙を思い出し、さらにはなすすべなく殺されていった被害者たちの声なき叫びまでも想像した。彼の怒りのボルテージは最高潮を超え、彼の右の拳からは強い電気が発生した。
「いいかげんにしろおぉ!!!」
ロジャーは吠えるとガルーに向かって突進し、その顔のど真ん中に電気をまとった激しいパンチを浴びせた。その衝撃でガルーは仰向けに倒れ、ロジャーはすぐにガルーのあごに強力なキックを喰らわせた。そしてガルーの顔面、特に鼻の辺りを何度も強く踏みつけた。ロジャーの足技を何発も受け、ガルーの牙はボロボロになった。
「ホ、ホモ・サヒエンスガ…」
彼はひるんだような声を出しながらよろよろと起き上がった。その間にロジャーはガルーから距離を取ると、それぞれの手に玉状のプラズマ弾を発生させ、それらをガルー目がけて投げつけた。それらは二発とも標的に直撃した。
やがて、ほかの兄弟たちも現場に駆け付けた。彼らの目に映ったのは、仰向けに倒れているガルーの腹を一心に殴り続けるロジャーの衝撃的な姿だった。彼が兄弟の中でも攻撃的なキャラなのは昔からだが、ここまで激しく相手を殴るのは見たことがなかった。この有様に、いつもクールなはずのブライアンが大声で言った。
「やめろ!やつの体力はもう限界に近付いてる!」
しかし、ロジャーに次兄の声は聞こえなかった。そこで末弟のジョンが両手を差し出し、すぐ上の兄の背中を狙って砂を飛ばした。
「うわっ!」
苦手な地属性の技を喰らい、ロジャーは思わず攻撃の手を止めた。そして弟のほうを見ると、強い目力でにらんだ。
「余計なことすんな」
その隙にガルーは横になった状態のまま、後ずさった。そして何とか二本足で立つと、背中を丸めて荒い呼吸をしながら言った。
「ハァ、俺ハモウ、ホモ・サピエンスヲ襲ワネェ。今マデノコトハ謝ル。ハァ、ダカラ、命ダケハ…」
しかしロジャーのほうは、剣を横に持つような動作をして、手の中に発生した電気を剣のような形に変えた。
「じゃあ、とどめ刺すけど…いいよね?」
ゆっくりそう言うと、電気でできた剣を手に突進した。
「たああぁぁ!!」
ロジャーは擦れ違いざまに素早くガルーを切り裂いた。怪人はうめき声を上げながら前のめりに倒れ込み、爆散した。それから数秒後、ロジャーもへたり込んだ。
作品名:グレイ家の兄弟 Roger in a Rage 作家名:藍城 舞美