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Aprikosen Hamlet ―武蔵野人狼事変―

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生田兵庫「…まきちゃんの、太もも…」

 第三中隊が東京湾に派遣されている間、長栄山本門寺に拠点を置く大森軍管区第四中隊は、池上町周辺での任務に従事していた。もっとも、その「作戦」の内実は、バレンタイン聖日に伴う商店街での暴動対策であって、飽くまで平和の延長線上に過ぎなかった。

斎宮星見「…ん? 何だよ…?」

 この第四中隊を率いる生田兵庫大允(いくた ひょうごのたいじょう)と斎宮星見(さいぐう ほしみ)は、はっきり言って、自分達の待遇に不満を抱いていた。どうせ「お祭り騒ぎ」するならば、せめてクリスマスの渋谷・新宿・池袋とかでリア充を爆破(物理)したかったし、そのような目標にして理想があったからこそ、日々の過酷な訓練・演習を乗り越えて来られたのである。その帰結が、地味な地元での、暇な警備係に終わるとは、今までの努力は一体何だったのか?と言わざるを得ない。しかし、そんな愚痴も長くは続かない…。

斎宮星見「…どうなってんだよ、これは? おい大允、起きろ!」

生田兵庫「何だよ? 騒がしいな…あ~、良く寝た」

斎宮星見「どうして…どうして俺達は、こんな所で寝ていたんだ? 暇とはいえ、あれでも任務中だろう? それに、ほかの奴らはどこに行った?」

 斎宮星見が冷静に異変を分析する一方、夢の中で推しのアイドルと何かをしていた生田兵庫も、ようやく意識が現実にログインして来た。

生田兵庫「…あ、本当だ。僕達しか居ない…もしかして、置いて行かれたんじゃない? とりあえず、司令部に連絡を…」

斎宮星見「駄目だ、無線がつながらない…え、圏外? ふざけんなよ、そんな馬鹿な…!」

生田兵庫「あっ、僕のもだ。電話もインターネットも使えない…って言うか、電源が入らない」

斎宮星見「これじゃ、期間限定ガチャも引けないな。あれ確か、今日までだった気が…」

生田兵庫「これじゃ、国鉄の時刻表アプリも開けないよ」

斎宮星見「…」

生田兵庫「…」

斎宮星見・生田兵庫「「ちーがーうーだーろー!!」」

斎宮星見「一体、何があったんだ? 大允、思い出せ! 俺達は昨日まで、何をしていた?」

生田兵庫「…何だろう? 思い出そうとすると、頭が痛い…あ、そう言えば…」

斎宮星見「何だ? 早く言え!」

生田兵庫「…えっと、確か…赤くて、煩(うるさ)くて、熱くて…そうだ、爆発だ! 空で何かが光ったんだよ! で、それを見た僕達は…」

斎宮星見「…ああ、俺も何となく思い出した。つまり、何かが上空で爆発して、その時の磁場か何かで、電子機器がぶっ壊れたわけか。で、ついでに俺達も気絶したと…でもさ、人間が意識を失うって、相当だろ?」

生田兵庫「爆発したのは、やっぱり弾道ミサイルかな? だとすると、日本にそんな物を撃って来る国と言えば…」

斎宮星見「だけど、それならアラートが反応するはずだ。前の戦争で、この国の防空システムがダメージを喰らったとはいえ、レーダーを全てかいくぐってミサイルを着弾させるなんて、アメリカでも無理だろ?」

 理解できかねる情況を、状況としてどうにか理解しようと試みる二人。現時点で分かっているのは、「バレンタイン作戦」の途上、ミサイルと思しき弾頭が上空で炸裂し、それに伴う何らかの被害により、意識を失っていたという事。それも、恐らく数日間に及ぶ昏睡状態だったようだ。その間、通信などの電子機器が破壊され、最も不審なのは、第四中隊の仲間達が、忽然(こつぜん)と「蒸発」してしまったという事である。

生田兵庫「だとすると、僕達が真っ先にやらなきゃいけない事は…」

斎宮星見「食糧の確保、だな。特に水分。手持ちの非常食には限りがあるし、まさか呑川の水を飲むわけにはいかないからな…急がないと、タイムアウトだ」

 呑川は、大森・蒲田を南北に流れる河川で、平安時代に北部の支流を堰止めた洗足池は、日蓮・勝海舟・西郷隆盛ゆかりの名所でもある。人気(ひとけ)がなく、あらゆる機械が動かず、時間が止まっているかの如く錯覚させる街並みだが、この河川だけは、静かに波を刻み続けている。そうして川沿いを警戒しながら進むと、次第に見慣れた景色が近付いて来た。

生田兵庫「あ…あれ、自販機じゃない?」

斎宮星見「本当だ。ああいうのは確か、災害用の非常電源が入ってるやつもあったはず。行って見ようぜ!」

生田兵庫「…待って、誰か人が居るよ!」

斎宮星見「良かった…俺達以外にも、生存者が居たようだな。それに、あの軍旗は第四中隊の物…つまり、味方だ」

 何も見出せなかった中、ようやく「味方」との合流を果たせたと思い、とりあえず安堵する二人。恐らく相手も、東京同盟軍の本隊から孤立し、不明と不安の狭間で、ここまで来たのだろう。そんな事を考えながら、声を掛けようとしたのだが…。

生田兵庫「あ…あの、こんにちは!」

斎宮星見「おはこんばんにちは。俺は、第四中隊の斎宮星見です。こいつは、ダチの生田大允です。あなたも、俺達と同じ部隊ですよね?」

生田兵庫「僕達も、気付いたら仲間と離れ離れで、通信もできずに、困ってたんです」

斎宮星見「この自販機、停電でも使えるタイプですよね? 俺達も、ここで補給したいのですが…」

 何かがおかしい。相手は確かに、自分達の存在に気付いているが、一向に返事らしい返事をしない。ただ、一歩ずつこちらに近寄って来るだけだ。まるで、何か獣類のように…そして、それはどこかの映画で観た事があるような光景。二人は本能的に、異常を察した。

生田兵庫「…これって、もしかして…」

斎宮星見「い…いや、そんなはずは…」

 目前に居る「人ではない人」が、その本性を二人に向けようとした、その瞬間の事だった。

塔樹無敎(あららぎ むきょう)
「離れろ! そいつは最早、ヒトではない!」

生田兵庫「え?」

斎宮星見「この声は…!」

 刹那(せつな)、聞き覚えのない銃声が轟(とどろ)き、「人でない人」の頭蓋骨が吹き飛ばされた。首から上を失った「彼」は、変色した血液を吹き飛ばしながら、地球の重力に従い、斃(たお)れた。そして、その背後に佇(たたず)んでいたのは…。