「美那子」 告白 三話
「何度も言うけど浮気なんてしてないから。誤解を招くのはおれじゃなくておまえだろう?ずっと家にいるから余計なことばかり考えるんじゃないのか?反対しないから仕事に行ってもいいよ」
「何を言っているの。今更仕事なんてイヤよ」
「ほら、甘えているじゃないか。だったら余計なこと考えずに協力してくれよ」
「あなたは変わった気がする。前はもっと優しかった。私には不満なんか無かったのよ。美那子のことや秀一郎のことで気が少し回らなくなっていたけど、浮気なんて一度も疑ったことはないから。それなのに私の浮気を疑うなんて・・・」
美樹は泣いて見せた。
彰は少し言い過ぎたかも知れないと考え直して、あくまで潔白を繰り返した。これが逆効果となったことは否めない。男は正直というかバカなのだ。
こんな会話の後で美樹は抱かれようとは思わなかった。
彰もバツが悪くなりそのまま寝た。
翌朝二人は話すことも無く美樹の「行ってらっしゃい」だけになっていた。
秀一郎はその様子に気付く。
「母さん、どうしたんだよ。父さんと喧嘩でもしたのか?」
「ええ?そんなことないよ。何か変だった?」
「まあ、いいけど。いい歳をして喧嘩なんかするなよな」
「いい歳って本気で言ってるの?」
「やっぱり喧嘩したんだ。すぐに怒ったりして」
美樹は昨日の欲求不満を解消できずにいたから余計にイライラする気持ちになっていた。三枝に後で電話しようと考えていた。
美那子が先に出掛けて、秀一郎は母親の部屋を覗いた。変な意味ではない、気になることがあったからそうした。
やはりだ。携帯電話で誰かと話していた。振り返って秀一郎に気付くと電話を切った。
「なによ、いきなり入ってきたりして。ノックして頂戴ね」
「誰に電話していたんだよ。答えられない相手だろう?父さんと何があったのか話してくれないか、ちょっとは愚痴聞いてやるから」
「何もないよ。電話はお友達にランチしようって掛けていたの」
「家の電話で掛ければいいじゃないか。おれにウソつくなよ。母さんのことは何でも解るんだ」
「あなたが思っているような人に電話してないから・・・何が解っているというの。子供のくせに」
美樹は自分がいい歳をしてと言われたことを根に持って子供のくせにと言い返してしまった。
秀一郎は困惑した表情で母親を見ていた。初めて母から自分を否定するようなことを言われたからだ。
作品名:「美那子」 告白 三話 作家名:てっしゅう