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輪の中心でぴょんぴょん跳ねる(リードオフ・ガール 番外編)

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(早い!)
 由紀はキャッチャーが捕球動作に入るのを見てそう感じた。
 キャッチャーのブロックも完璧、ぶつかり合えば小柄な自分は弾き飛ばされてしまう。
 だがアウトになるわけには行かない、チームのために、自分のために、そして淑子のためにも。
 咄嗟の判断だった。
 由紀はベースの3メートル手前で思い切り体を後ろに倒して右スパイクの歯をアンツーカーに突き刺した。
 そのまま止まれば完全にアウト、キャッチャーがボールを掴み、体を反時計回りにひねってタッチに来る、だが、そのミットは空を切った。
 由紀は走り高跳びの踏み切りの要領で急激にストップし、さらに左膝を振り上げて走って来た慣性を上へと向けたのだ。
 タッチすべき相手が急に消えてしまい、キャッチャーの体はそのまま左に流れた、そしてスピードを跳躍力に変換した由紀は空中で前転するようにキャッチャーを飛び越え、右手をホームベースに突いて転がった。

「セーフ!」

 主審の両腕が大きく広げられた。
 逆転サヨナラ、ランニングホームラン!
 日本代表チームはアメリカ代表チームを下してワールドカップをもぎ取ったのだ。

 真っ先に駆け寄って来たのは淑子だった、淑子の走り方は内股で膝から下を左右に跳ね上げ、腕は体の横で軽く曲げたまま広げて体を左右によじる様にローリングするもの、その肘に買い物籠をぶら下げたらさぞ似合うだろうとばかりに『お買い物走り』とからかわれるフォーム、鈍足を競えばチームでダントツのトップなのだが、今日ばかりはいつになく速かった。
「ありがとう! 由紀! どうしようかと思った!」
「ううん、淑子が突っ込ませてくれたからできたんだよ」
 ベンチから真っ先に飛び出したのは雅美、そしてチームメイトがいっせいに雅美に続き、抱き合ってぴょんぴょん跳ねる二人はあっという間にチームメイトに取り囲まれた……。


「やったな」
「ああ、由紀も淑子も最高だよ、雅美も良く投げた」

 自宅で衛星中継に前のめりになってかじりついていた光弘と光男の親子は、ほっとしたように体を起こして、その光景を感慨深く眺めていた。

「やったわね、すごいすごい」
 光男の妻、光弘の母がビールを開けて持ってきてくれた。
 二人はその光景に乾杯し、いつまでも感慨深げに眺めていた。
 
 世界一になった日本の女子野球代表チーム、その中心で抱き合って跳ねているのは彼らが見出し、育て、活躍の場を与えて来た選手、コーチたちなのだから……。
 光弘が種を撒いて水をやり、光男が陽光を当てて来た草は今、大輪の花を咲かせたのだ。


 (終)