オヤジ達の白球 31~35話
球審をつとめるのはなぞの美女。
おたがいのチームがホームベースをはさんで整列する中。
はじめて「球審をつとめる前原千佳です」とフルネームを名乗った。
1塁には最長老の審判部長。
2塁におなじく副部長。3塁に事務局長という豪華な審判団が定位置についた。
Aクラスに籍を置く消防チームの選手たちも、この顔ぶれに面食らっている。
町の大会でもここまでの審判はそろわない。
先輩の寅吉さんはいったいどんな手を使ったのだろうと、消防のベンチが
賑やかになる。
そんな空気の中。先発の坂上が試合前の投球練習に入る。
ソフトボールの投球練習は初回のみ5球。あとは各イニングに3球づつ。
(いったいどんな球を投げるんだ、初登板の坂上のやつは・・・)
ドランカーズのベンチに軽い緊張がはしる。
祐介も坂上の投球を見るのは今日が初めてだ。
岡崎から「びっくりするなよ。けっこう、それなりに速い球を投げるから」
と、ことあるごとに聞かされている。
キャッチャーに向かって坂上が上半身を前傾する。1球目の投球動作へ入る。
軸足(右足)を投球プレートの上へ乗せる。同時に踏み込む足(左足)を
後方へおおきく引く。
ぐるりと腕がまわされる。
坂上の手元を離れた白球がうなりをたてて寅吉のミットへ吸い込まれる。
(ほうっ・・・)
祐介の口からの驚きの声がもれる。
守備陣からも「意外といけるんじゃねぇか」のささやきが起こる。
消防のベンチから、「おっ、いい球を投げるじゃねぇか」と
感嘆の声がわきあがる。
2球目、3球目も同じように小気味の良い音をたて、速い球が寅吉のミットへ
おさまる。
「それでは消防さんの先攻でゲームをはじめます。プレ~イボ~ル」
千佳の黄色い声が、グランドへ響き渡る。
マウンド上の坂上が、上半身をゆっくり前方へかたむける。
本番の投球動作へはいる。
(おっ、いよいよ試合がはじまるぜ・・・坂上の、記念すべき第1球目だ)
祐介がぐっとベンチから身体を乗り出す。
(36)へつづく
作品名:オヤジ達の白球 31~35話 作家名:落合順平