3分間の奇跡
和音がいた頃の輝きは薄れた、しかしデビュー当時からのファンはしっかり残ってくれたし、少しづつだが新しいファンも獲得して地道な活動を続けている。
和音はソロとして再デビューした。
そのルックスでも注目を浴びたが、演奏技術や音楽理論はしっかりしたものを持っている和音だ、ペニー・レーン時代のようなヒット曲はないものの、クラシックの要素も取り入れた楽曲と演奏は高く評価されている。
別々の道を歩むようになってから2年後、ペニー・レーンと和音は、とあるフェスで顔を合わせると、同じステージに立って当時のヒット曲を一緒に演奏した。
聴衆はその共演を喜び、惜しみない拍手を送り、和音のペニー・レーンへの復帰を期待した。
だが、和音がペニー・レーンに復帰するつもりはなく、ペニー・レーンもそれを望んではいない。
元々喧嘩別れしたわけではない、充分に話し合い、納得した上で別々の道を歩むことを選択したのだ。
和音を加えた当時のブレイクがなければ、ペニー・レーンは尻つぼみになって消滅していたかもしれない。
和音もペニー・レーンに迎えられなければメジャーに知られる存在にはなれなかったかもしれない。
元々違うベクトルを持っていたが、それが一致する瞬間があり、異なる個性が化学反応を起こしてまばゆい光を放った。
しかしその瞬間を経て、それぞれのベクトルの上を進むことを選択した、そう言うことなのだ……まばゆい光を放ち続けることは至難の業だ、光が強ければ強いほど燃え尽きるのも早いのが常。
しかしその光を放てないままに終わる者もまた少なくない、この日の共演で、それが幸せな出会いであったことを確認できた。
ペニー・レーンにとっても和音にとってもそれで充分だったのだ。
「あなたたちくらいブレないバンドもないわね」
予定になかったアンコールを求める拍手に背中を押されてステージに戻った時、和音はマイクを通してペニー・レーンをそう評した。
「まぁね、これしかできないしやりたくもないからさ」
俺は笑顔で答えた。
「でも、それって素敵よね」
「そう言って貰えれば嬉しいよ、和音もゴーイング・マイウェイを貫くんだろ?」
「ええ、そのつもりよ……でも、今夜は楽しかった、素敵な同窓会だったわね」
「ああ、俺たちも楽しかった、今夜はありがとう」
「こっちこそ、ありがとう」
そしてアンコールの曲を演奏し始めた。
それはペニー・レーンに和音が加わって、初めて出したシングル。
5人編成になったペニー・レーンが最も輝きを放った、原点ともなった曲だった。
そしてこの夜、時計は3分間だけ3年前の時を刻んだ、彼ら5人に未来を切り開いて行く力をもたらすために……。
(終)