繋ぐべきもの
今や海外でも『EKIDEN』と言う名称が使われ、襷を繋いで行くスタイルが広まりつつあるのは、襷に込められた思いを繋いで行くと言う意義が評価されているからに他ならない。
そして……自分はどうだ……?
確かに車椅子から離れられない体になってしまったことは厳然たる事実だ、それは不幸なことであることは間違いない。
だが、それで何もかも諦めて良いのか?
自分には人生を共に歩もうと誓った妻がいる、守るべき子供もいる。
まだ自分は襷を外していない、まだ外すべき時でもない。
医師の言うには命があっただけ幸運だった、そのくらいの事故だったらしい。
そう、自分は幸運だったのだ、命はある、脳にも異常はない、そして腕だってある、今の世の中、車椅子では行けない所などほとんどない。
子供たちが一人前になるまで、襷を託せるようになるまで走り続けよう。
どんなにペースダウンしても良い、亀の歩みでも良い、大事なのは前へ進むことだ。
脚を止めることをしなければ、いつかはゴールに辿り着けるのだから……。
「パパ! あけましておめでとう」
四日の朝、子供たちが病室に飛び込んで来た。
「ああ、おめでとう、おじいちゃんちで良い子にしてたか?」
「うん、あのね、おじいちゃんに独楽回し教えてもらったんだ」
「そうか、うまく回せたか?」
事故以来失っていた笑顔を子供たちに向けることができた。
それを見ていた妻も笑顔を見せてくれた。
「駅伝?」
「ああ、見たか?」
「ええ、もちろん」
「やっぱり良いな、駅伝は、生きる勇気を貰えたよ」
「そう……良かった……」
「おいおい、涙ぐむなよ、良いニュースがあるんだ、退院しても良いそうだよ、まだしばらくは通わなくちゃいけないらしいが」
「そうなの? 良かった」
「当面車椅子は借りられるそうだが、早々に買わないとな」
「ええ、そうね」
「実は三台欲しいんだが……」
「え? どうして?」
「外出用と家の中で使うやつ」
「あと一台は?」
「車椅子マラソンってのがあるのを知らないかい? ま、これはおいおいで良いけど……うんと速いやつが欲しいから良く研究してから買わないとな」
(終)