金曜日のアウトドア 最終編
しかし、トミーからは血が1滴も出ないどころか、痛みすら感じなかった。そう、充電が切れたので、チェーンソーが動かなかったのだ。狼マスクは慌てふためいた。
ヨハンとトミーは、一層強くそいつをにらみ、トミーが渾身のビンタを喰らわせて吠えた。
「この鬼畜!兄さんたちを返せ!!」
そして、殺人鬼がかぶっている狼マスクを乱暴にはぎ取った。マスクに隠されていた顔は、何と60代半ばぐらいの女性だった。
「えっ、お、女!?」
「なぜ…なぜ俺たちの兄弟を殺した!」
加害者の女は、まさに狼のような目で二人を見ると、淡々と話した。
「小さいときから毛深かった私の息子は、ずっと昔、このヴォルフスヴァルトでのキャンプのとき、ほかの子たちに暴行を受けて死んだの。石でおなかを、何発も何発もやられて…!」
ヨハンは、低い声で言った。
「そんなこと、俺たちには関係ないだろう!」
「ええ、確かに関係ありませんとも。でもね、このヴォルフスヴァルトで楽しく遊ぶやつらを、私は許せないのよ!それに、この森で死者を出せば、息子だって寂しくないでしょう」
トミーは歯ぎしりした。
「ふざけるな……!」
そのときだった。殺人鬼はおびえた顔でひるんだ声を出すと、後ずさりした。ヨハンとトミーが斜め後ろを見ると、灰色のトレンチコートを着た、黒縁眼鏡の1人の小柄な紳士が立っていた。
「おや皆さん、そこで何をなさっているのですか」
一同は言葉を失った。女殺人鬼の膝は、ガクガク震えている。紳士は、彼女に言った。
「その物騒なものをこちらに渡してくれませんか」
女は、凶器を落として泣き出した。
「だ、誰だこのおっさん…」
そう言うヨハンをよそに、人相の悪い刑事が二人やってきた。
「ついにこの日が来た!パメラ・バウシュ!殺人罪で貴様を逮捕する!」
背が高く、手足の長い刑事のほうが大声でそう言うと、容疑者の両手に手錠をはめた。
「私の息子は、キャンプでほかの子たちに殺されました…」
彼女は涙ながらに灰色のトレンチコートの紳士に話した。しかし彼はゆっくりと、厳しく言った。
「だからといって、あなたのしたことは、決して許されません」
パメラは、下を向いて泣き続けた。
「え、この人たち、警察か?」
「うん、それっぽいね」
兄弟が会話をしていると、眼鏡の紳士が
「さあ、行きましょう」
と言って、あとから来た刑事たちとともに容疑者を連行した。ヨハンとトミーも彼らの後に付いていった。トミーは、この森で起こったことを思い出して、再び泣きだした。
作品名:金曜日のアウトドア 最終編 作家名:藍城 舞美