タイトル未定
俺はこの話について子供達に最後まで話すつもりは無い。何回も同じ話をするかもしれないが、俺が話すのは京華がけーちゃんと同一人物だと気付いたところまでだ。
子供達は成長したら勝手に話の結末に気づくだろう。
きっとそうなれば、子供達は『これで良かったの?」と聞いてくるだろう。そしたら俺はこう答えてやるんだ。『ああ。俺は今幸せだ』ってね。
俺がこの話を通じて子供達に伝えたかったのは、人生は失敗と後悔の連続でこれは変えられない事実だということ。そして、失敗と後悔の連続の中でも人間は幸せになれると言うことだ。別にそれ以外のことを汲み取ってもらいたいとは思ってはいない。
これはおよそどこにでもあるようなつまらない初恋と後悔の話だ。代替品はいくらでもある。
感動のストーリーだとか胸を締め付けるドラマティックなお話は他を当たって欲しい。
大学時代、舞台台本を作って金を稼いでいた後輩にこの話を聞かせたら台本の原案に使わせて欲しいと言われたことがあった。特に断る理由も無かったため、俺は自由に使ってくれと言った。
俺がその話に快諾したのはけーちゃんの弔いの意味もあった。
後輩は話の要点をメモすると、最後に「タイトルはどうします?」と聞いてきた。
「別になんでもいいよ。タイトルをつけられるほどの話じゃ無いし」
俺はそう答えた。
そう。これはあくまでも俺の経験した平凡でつまらない初恋と後悔の物語だ。タイトルなんて存在しないし、タイトルをつけるほどの素晴らしいものでも無い。
だけど、強いてタイトルをつけるのならこれしか無いだろうと俺は決めたタイトルを紙に書いて後輩に渡した。
物語として昇華できないただの思い出話の範疇《はんちゅう》のこのお話のタイトルは−
タイトル未定 終
【カーテンコールの紛い物】
この物語はもともと生まれる予定はありませんでした。
生まれる予定がなかったといえば語弊がありますが、とりあえず言えるのはタイトルの通り、語るほどではない物語であったために語られない予定でした。
ですが、ある物語を書く際にボツとなった部分を現在連載中の『雨上がりの宝物』にて作中小説として登場させると、この冒頭の千文字にも満たない失敗作をどうにか弔ってやりたいと思うようになりました。
それがこの作品のスタートです。
最初は5話の途中までを全6話で書き、5話の最後をエピローグとして書き記す予定でした。
ですが、それではダメだと思いました。
この物語においては終わりの先を描かなければ、皆がただ不幸になって終わってしまうと思いました。
端的にいうとハッピーエンドに餓えていたんです。幸せに触れたかったんです。
けれど、人生においてハッピーエンドはただの絵空事です。それは人間が幸せを求める生き物である以上は仕方のないことだからです。
だからこそ、今回はハッピーエンドとは言えないがバッドエンドのくくりには入らないよう物語を書き記そうと思いました。
フィクションかノンフィクションかで言えばフィクションです。
ただ、俺は名前も知らない誰かのノンフィクションを俺なりの言葉で書き記しただけです。
なんというか、うまく言えませんがこの話はどこかで確かに実在するお話です。
今回は登場人物の多くにモデルにした人間が存在するので、どの人物にモデルが存在するのかだけ語っておきます。
シゲ。京華。雪乃。和志。彰人。一輝。しいたけ婆ちゃん。
これらの人物には確かに名前を借りた人間とモデルになった人間が存在しています。
みんな、勝手に小説に使ってごめん。
あと、一つだけ言っておくならばしいたけ婆ちゃんは実在していて、本当にしいたけ婆ちゃんと呼ばれています。なんなら、俺の実家の道を挟んだお隣さんでもあります。
これだけいうと、本当にこの物語がどこかの町で繰り広げられたと思いませんか?
神社の夏祭りも花火の祭りも実在しています。
おじいちゃんの床屋やおばあちゃんの美容室。向かいの郵便局も全て存在しています。
だからこそ断言できます。この話はフィクションではあるけれど、実際に存在する誰かの思い出です。実在する凌には幸せになってほしいものです。
さて。この物語においては語りたいことが沢山あります。なにせ、俺の実際の思い出もモチーフになっているからです。
本来ならば隅から隅まで解説をするように語りたいです。本来ならば、こんな中編小説ではなくしっかりとした長編小説として書きたかったです。
ですが、そんな無粋なことはしません。
この物語は皆が汲み取ってくれる通りの意味合いです。
最後をあの終わり方にしたのは、読む人それぞれにタイトルを決めてほしいと思っているからです。勝手だと思いますか?
でも、読む人間によって捉え方が変わる以上、タイトルも変わってもいいと思います。
本当は、こんな終わり方にするつもりはありませんでした。
もっと読み手に考えさせる内容にするつもりでした。
ですが、俺が初めて描く純粋にいい子ちゃんなヒロインのけーちゃんには幸せになって欲しかったんです。だからこそあそこまで物語を書きました。
けーちゃんは幸せになりました。凌も幸せになりました。
その幸せの審議は定かではありませんが、二人とも幸せになったことは確かです。
みんなも、けーちゃんと凌くんを弔ってあげてください。
『最後に』
この作品は純粋に美しい青春の思い出です。
記憶は歪むものですが、それは気にしないのが粋と言うものです。
もし、この作品を語り継いでくれる人がいるならば喜ばしいことです。
劇やラジオドラマなど、なんでもいいです。この話をあくまでも原案として使いたいと言ってくれる人がいるなら連絡をください。拒絶はしません。
使用料は彼らの綺麗な記憶を語り継いでくれることです。
どうか、彼らの幸せを永遠のものにしてあげてください。